領域概要【明らかにすること】
研究姿勢
- (ア)高い時間空間分解能での観察を通じて、未知の集団的細胞挙動を明らかにする。
- (イ)定量性を意識して種々のパラメータに注目した解析を行い、細胞と「場」との「対話」について明らかにする。
- (ウ)数理モデル化とウエット実験との組み合わせによって「動き・ゆらぎ」の意味を解く。
まず (1) 対象とする細胞・系ごとに、「動き」(出会い、加わり、並び、離れ、束なり、交叉、積み重なり、並び替えなど)を「個」と「集団」の相互関係を含めて詳細に把握します。次に (2) やはり、対象とする細胞・系ごとに、動く細胞と「場」との「対話」の実体を把握します。すなわち、液性因子の供給と受容、細胞表面分子、細胞外基質などによる動的な制御と細胞の反応性に加えて、細胞内のシグナル分布、応答強度、力学特性など、これまで把握が不十分であったパラメーターにも注目して、定量解析に耐えるデータを得ることをめざします。そして (3) 系を越えた相互補完的な議論、比較解析、数理モデル化と検証などにより「ゆらぎに富んだ動きから多細胞組織の秩序がもたらされる原理」について明らかにします。それにあたり、動く・ゆらぐ細胞自身が互いに「場」となることで階層の上昇が果たされる(自己組織化で説明される)側面と、そうした「自己組織化」の要素・成分に加えて「外」が作る「場」からの影響・拘束を受けながら秩序がもたらされる側面との両方を浮き彫りにすることができると期待できます。多階層的に構成される本領域では、このように複数の視点で分子・細胞・組織・器官という階層上昇の「全体像」の理解をめざします。
「組織」という「堅く」作り上げられたように思える構造のなかにも、「ゆらぎ」と見なしうる細胞の動きが秘められている可能性があります。これまで技術的な限界に阻まれてとらえられなかったとしても、今なら、それを解決し、実態を知ることができそうです。「ゆらぎ」というコトバはなんとなく抽象的で、組織や多細胞の系を扱う研究者にとってはそれが「細胞」に対して用いられることに一瞬違和感すら覚えてしまうような存在かもしれませんが、それこそが「細胞のゆらぎ」を多細胞の世界で問うということの「新しさ」を示すと言えます。これまでに「分子」を対象として「ゆらぎ」を正確に読み解くことができたのは「精密なイメージング」と「数理・統計」の組み合せのおかげですが、その強力な「組み合せ」を通じて、「三次元の世界のなかの細胞」の動きに関しても客観的な評価をするという目標を掲げられる段階に、今、私たちはいるのです。