実験装置

主要分光計測装置

共焦点顕微ラマン分光装置1(632.8 nm励起)

倒立顕微鏡(Nikon, Ti2-U)下の細胞などの微小試料中のラマンスペクトルを高い空間分解能で測定することができる自作装置です。ラマン励起にはHe–Neレーザーの632.8 nmの光を用い、検出器には電子増倍型CCD検出器(Andor, Newton DU970P-BVF)を用いています。体積ブラッグ回折格子ノッチフィルターを組み込むことにより、レイリー散乱に極めて近い低振動数領域(およそ±5 cm-1まで)のラマンスペクトルを測定することが可能になります。また、3軸ピエゾナノポジショナー(Mad City Labs, Nano-LP100)を顕微鏡ステージ上に搭載することで、マッピング測定を行うこともできます。

共焦点顕微ラマン分光装置2(532 nm、多波長励起)

これも自作のラマン顕微鏡です。ラマン励起には全固体光励起半導体レーザー(Coherent, Genesis CX532-2000SLM-CDRH)の532 nmの光、または波長可変ナノ秒OPOレーザー(EKSPLA, NT242)からの可視全域の出力光を用い、検出器には電子冷却CCD検出器(Andor, iDus DU401-BV)を用いています。顕微鏡筺体はオリンパスの倒立顕微鏡(IX73)を使用しています。上記の顕微ラマンシステムと同様に、体積ブラッグ回折格子ノッチフィルターを組み込んでおり、超低振動数領域(およそ±5 cm-1まで)のラマンスペクトルを測定可能です。顕微鏡用の精密温度制御ユニット(Interference, VAHEAT)やペルチェ式加熱冷却ステージ(Linkam, 10021)と組み合わせて用いることで、試料の温度変化に伴うラマンスペクトル測定を行うこともできます。

マルチモーダル非線形分光顕微鏡

3次非線形光学効果の一種であるコヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS)を用いた顕微分光装置です。上記2つの装置では線形(自発)ラマン散乱を利用していますが、CARSはコヒーレントな信号光を高効率に発生・検出することができるため、感度の点で優れており、イメージング速度の高速化(~1 ms)を達成することができます。フォトニック結晶ファイバーを用いて発生させた近赤外領域のスーパーコンティニューム光により、多数の振動モードを同時に検出可能なマルチプレックスCARS測定も本装置の大きな特徴です。CARSに加えて、可視領域に現れる第二高調波発生(SHG)、和周波発生(SFG)などの非線形光学信号も観測することができるマルチモーダル非線形分光顕微鏡となっています。

ナノラマンイメージング装置

原子間力顕微鏡(atomic force microscope, AFM)と正立型ラマン顕微鏡を組み合わせた装置(HORIBA, XploRA Nano)で、AFMによるナノメートルスケールの微細構造観察と同期したラマン分光測定や、チップ増強ラマン散乱(tip-enhanced Raman scattering, TERS)によるナノスケールでの化学分析が可能な最先端の装置です。波長532, 638 nmの2本のレーザーを搭載しています。自作の装置と比べると、独自のアイデアに基づいた装置の改良・拡張に対するフレキシビリティーには欠けますが、初学者でも扱いやすい操作性を持った装置です。

電場変調赤外分光装置

試料に外部から電場を印加したときの赤外吸収スペクトルの変化を極めて高感度に測定することができます。10−8程度の微小な吸光度変化を捉えることが可能な世界で唯一の装置です。現在赤外分光で広く用いられているフーリエ変換型分光器ではなく分散型分光器(日本分光、TRIR1000)を採用し、AC結合増幅およびロックインアンプによる位相敏感検波と組み合わせることにより、このような超高感度検出を実現しています。赤外検出器にはHgCdTeあるいはInSb検出器を用いています。

その他の実験装置

フーリエ変換赤外分光光度計(右)、紫外可視分光光度計(左)

試料の赤外吸収スペクトル、電子吸収スペクトルを簡便・迅速に測定するための装置です。FTIRではZnSeプリズムを用いた減衰全反射(attenuated total reflection, ATR)測定、UV/Visでは積分球を用いた固体試料の測定も行うことができます。

蛍光顕微鏡

UV, B, G励起で細胞の蛍光観察を行うための顕微鏡です。

ナノ粒子解析装置

動的光散乱を用いて、金属ナノ粒子やメンブレンベシクルなどのナノサイズ粒子の粒径分布を測定するための装置です。

細胞培養設備

微生物を培養するために必要なクリーンベンチ(2台)、使用温度範囲の異なる恒温振とう培養機(6台)、−80℃低温フリーザー(2台)があります。この他に、滅菌処理を行うためのオートクレーブや遠心分離機、菌体観察用の顕微鏡などを保有しています。共同研究先(理研JCM、筑波大 野村研究室、徳島大 櫻谷研究室、東大 野尻研究室、島根大 川向研究室など)から提供していただいた様々な細菌、糸状菌や微細藻類などの真菌を自分たちで培養し、上記の顕微ラマン分光装置や蛍光顕微鏡を用いて観察しています。いずれの微生物も環境常在菌をはじめとする非病原性の菌です。

遠心分離機

菌体の分離・濃縮や、メンブレンベシクルの濃縮・精製を行うための装置です。標準的な遠心分離機と、最高回転速度120,000 rpm、最大遠心加速度771,000×gの小型超遠心機(himac, CS120FNS)を保有しています。

超純水製造装置

バイオ実験用の超純水を水道水から簡便に製造するための装置です。

ガス置換用グローブボックス、スピンコーター

有機無機ハイブリッドのハロゲン化鉛メチルアンモニウム薄膜などの試料を作製するために使用します。乾燥窒素ガスで置換したグローブボックス内で、大気中の水分などに弱い試料を調製し、スピンコータ―で基板上に塗布します。

真空プラズマクリーナー

2Dペロブスカイト薄膜などを形成する基板上の有機物の除去や表面修飾などに用います。