『明解複素解析』(長崎憲一・山根英司・ 横山利章著, 培風館, 2002年) を補足します. このページは山根が作成しています.共著者の助けを 得た部分もありますが,打ち合わせなしで山根が独断で書いた部分もあります.
一部のネット書店では品切れとなっていますが,今でも入手可能で,関学理工学部では毎年2年生向けの関数論入門の教科書として使っています.楽天ブックスで購入可能です(2019年11月1日).
p.104の参考文献で, 第1刷では『オイラーの贈り物』となっていたところが
第2刷以降では『オイラーの贈物』となっています(それ以外には第1刷と第2刷以降の違いはありません.)
辞書によれば贈り物でも贈物でも正しいそうです. この本の場合は贈物という表記を用いるということです.
ところで,本の題名は『』で囲むのが正しく,「」で囲むのは良くないようです.
p.7 例2の誤植: 1-√3 となっているが,正しくは √3 の後に i をつけるべきである(p.6の例1と比べよ).
§6 (pp.33-39) の定理6.1, 6.2, 6.3 では曲線Cは単純閉曲線であると
仮定している.証明を見れば判るように,定理6.1, 6.2 においては
単純という仮定はいらない.閉曲線と仮定するだけでも定理が成り立つ.
しかし,定理6.3では単純閉曲線と仮定する必要がある.そもそも,
単純でなければ,曲線の標準的な向きをうまく定義することすら
できない(単純閉曲線なら,内部を左側に見る向きとして
定義する).
定理によって仮定が少しずつ違うと話が分かりにくくなるし,
単純でない閉曲線にはこれといった使い道がない.そのため,
定理6.1, 6.2でも6.3に合わせてCは単純閉曲線と仮定することに
した.
実をいうと,本書では単純閉曲線はp.12で定義してあるが,
ただの閉曲線は定義していない.ただの閉曲線とは始点と終点が
一致する曲線のことであり,単純閉曲線とは,閉曲線のうちで
自分自身と交わらないものである.
例えば8の字は閉曲線ではあるが単純閉曲線ではない.
p.48 なぜこの積分路を選ぶのか.
積分路の中に極がちょうど一つだけあって,しかも
評価がしやすいように選んだのである.
他の積分路でやると手間が増える.
例えば上半円でやってやれないことはないが,
その場合,積分路の中に二つの極が出てきて面倒である.
原点, R, R+iR, iR を頂点とする正方形でも
やってやれないことはない.
p.50 多項式の評価 (pdf)
p.52 の誤植: 問題8.1(2)(p.52)とその解答(p.97)の不整合 (pdf)
p.59 問題9.1, 9.2 の解答(p.98)の誤植
左辺を 2i 倍してあるのは誤植で,2倍するのが正しい
(発見者 笠井久美子さん).
p.60 コーシーの定理の仮定 (pdf)
p.61 コーシーの定理の証明の訂正と補足 (pdf)
p.62 コーシーの積分公式の証明で使う積分路の変形 (pdf)
p.75 定理12.3について.
定理のステイトメントでは
nは0以上となっている.本当は n=0 の場合をコーシーの積分公式と呼び,
n が 1 以上の場合を
グルサの公式と呼ぶ. 本の記述は呼び名の使い分けを
きちんと
説明していないので,ここで補足した.
p.75 定理12.3について(その2).
f(z)が複素微分可能としよう.
このときf(z)は正則
である(コーシー・リーマンの微分方程式を満たす)ことは既に示されている.
そして, 正則ならば定理12.3によって
何度でも複素微分可能である. まとめると,1回複素微分可能ならば
実は何度でも複素微分可能ということになる.これは著しい事実
である.実数の意味での微分可能性については
このようなことはなりたたない.
実数の場合のいくつかの反例(pdf)
が『高校生のための逆引き微分積分』サポートページにある.
p.84 の留数の定義に現れるKの条件について,誤解がないように補足する. ここでは D 内の極はaのみであることを前提としている(p.84の始めの数行 の記述に続いている).だから, 留数を定義するところで 「aがKの内部にある」と仮定すれば,Kの中の極はちょうど一つと いうことになる.
p.86 留数定理の証明における積分路の変形 (jpg)