関西学院大学理工学部 生命科学科 染色体機能学研究室 関西学院大学理工学部 生命科学科 染色体機能学研究室 関西学院大学理工学部 生命科学科 染色体機能学研究室

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研究内容Research

DNA Integrity Checkpoint

はじめに

みなさんはDNA複製といわれると、DNAが1本から2本に完全に複製されるとお思いでしょうか? DNA複製酵素であるDNAポリメラーゼは、10万回に1回という高頻度で複製の誤り(複製エラー)を引き起こすことが知られています。単純計算すると、1回のDNA複製で6万文字も誤って複製されてしまうことになります。もちろん、これらすべてが複製ミスとして蓄積するわけではなく、DNAポリメラーゼにも様々な種類があり、修復も行っています。ここで、このミスを修復する機構としてDNA複製チェックポイントが存在します。

細胞周期チェックポイント機構

細胞は染色体DNAが損傷を受けた場合にはそれを修復するために、あるいは染色体DNAの複製が遅々として進まないという状況に陥った場合はそれが完了するまで、または染色体分配のための準備が整わない場合にはその問題が解消するまで、細胞周期中での次のイベントへの進行を抑制するという制御機構を備えています(図1)。これらは一般に細胞周期チェックポイント制御と呼ばれます。このチェックポイントの概念は、1989年に出芽酵母におけるX線感受性変異株の研究からL. Hartwell博士らによって提唱され、その成果によりL. Hartwell博士は2001年にノーベル医学生理学賞を受賞されました。

チェックポイント機構が損なわれると、1回の細胞周期における染色体の複製・分離が不備のまま娘細胞に分配されて不完全な染色体を持つ細胞が生じる。 癌細胞の多くではチェックポイント機構の破綻が起こっており、チェックポイント機構の理解はがん治療の面からも重要な課題であります。

図1.チェックポイント概念図
図1.チェックポイント概念図

DNA複製・損傷チェックポイント

複製チェックポイントは主に4つの素過程からなっています。第一に、DNAの複製ミスやDNA損傷などの異常を検知するセンサー。次に、検出された異常を修復機構やターゲットに伝えるトランスデューサー。そして、チェックポイントの標的への作用を直接に行うエフェクター。最後に、チェックポイントが最終的に作用するターゲット、で構成されています(図2)。

図2.DNA複製・損傷チェックポイント機構
図2.DNA複製・損傷チェックポイント機構

DNA複製チェックポイントで、一番重要な役割を果たしているのがシグナルのセンサーでありトランスデューサーでもあるATR(ATM-related)キナーゼです。分裂酵母ではRad3キナーゼがこれにあたります。ATRキナーゼは制御因子と複合体を形成して機能します。分裂酵母(図3)の場合はRad3-Rad26が複合体を形成しています。エフェクターは分裂酵母ではCds1であり、出芽酵母ではRad53であります。また、ヒトではChk1で、複製チェックポイントで働いています。

図3 分裂酵母
図3 分裂酵母

ほとんどの真核生物では、ターゲットとしてCdc2の活性化レベルを制御することで有糸分裂への進入を阻害しています。Cdc2はCdc25によってTyr -15を脱リン酸化されることによって活性化されています。複製チェックポイントが発動するとエフェクターキナーゼによってCdc25がリン酸化され、 Cdc2の脱リン酸化が行われなくなり、細胞周期はS期で停止します(図4)。

図4.Cartoon of the G2/M Regulation in the FissionYeast
図4.Cartoon of the G2/M Regulation in the FissionYeast

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Prof. Katsunori Tanaka

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