研究概要

アーバスキュラー菌根共生・根粒共生システムの解明

 アーバスキュラー菌根共生は植物の陸上への侵出と同時期に成立した古い植物‐微生物相互作用であり、地上植物科の80%以上がこの共生能を持つといわれています。共生菌であるアーバスキュラー菌根菌(以下、菌根菌)は、土壌中に菌糸を張り巡らせ、リン酸や無機養分、水などを集めて宿主植物に供給するかわりに、宿主植物から光合成産物などの炭素源を得ています。この共生栄養供給は植物の生育に大きく貢献しており、元始の植物が水中からより過酷な陸上の環境へ適応するための支えとなったと考えられています。
 さらにマメ科植物では菌根共生システムの一部を共有することで、根粒菌との共生による根粒共生能を獲得しました。根粒共生では宿主根に形成された共生器官「根粒」の細胞内に菌を取り込み、根粒菌のもつ窒素固定能を利用することで、窒素源を得ることができます。

 

 菌根共生や根粒共生は、病原応答等に見られる拒絶を前提とした相互作用とは異なり、共生菌を体内に受容することを前提として成立する植物‐微生物相互作用です。この植物にさまざまな恩恵をもたらす共生システムを、さまざまな基礎的研究手法を用いて解き明かしていく研究を行っています。


共生機能の利用技術の開発 ー根圏のシンバイオティクスー

 菌根共生・根粒共生により、植物は3大栄養素とされる窒素、リン酸、カリウムの内の2つを効果的に得ることができます。この共生栄養供給を「微生物肥料」として利用することで、作物への効率的な養分供給が可能となります。私たちはこれをヒトと腸内細菌の相互作用におけるプロバイオティクスのようにとらえ、土壌菌叢における善玉菌としての共生菌を効率的に利用することで作物の生育を改善する手法を開発し、農業分野に貢献することを目指します。
 一方で、このような生物間の相互作用により生みだされるこの効果は、さまざまな環境因子や宿主・共生菌の状態により容易に影響を受け、本来の機能を発揮できなくなる不安定なものです。そこで、この共生を制御する因子やそれらによって構成される共生システムに関する基礎的研究成果を利用し、共生機能の安定制御や向上につながる技術開発にも取り組んでいます。その1つのアプローチとして、化合物によって根や土壌微生物叢を含む根圏への干渉を行うプレバイオティクスと位置づけた、「共生促進剤」による共生機能の向上や制御法の開発を行っています。これまでに宿主植物の共生菌受容機構や共生菌の増殖に作用する物質が共生促進剤として利用できることを示しています。
 私たちは微生物肥料のプロバイオティクス、共生促進剤によるプレバイオティクスを統合した根圏のシンバイオティクスへと発展させることで、共生機能の利用への道を切り拓いていきます。