本文へスキップ

Kwansei Gakuin University, School of Science and Technology, Department of Chemistry

関西学院大学 理工学部 化学科

〒669-1337 兵庫県三田市学園2-1

研究概要

Contents

物質を小さくしていくと、どんなことが起こるでしょうか?例えば半導体は、見た目は真っ黒な固体ですが、ナノ(10-9)メートルオーダーまで小さくすると、七色に光るようになり、他にもたくさんの特徴的な現象を示すようになります。それらの光物性は大きさやサイズに依存して変化し、また逆に言うと大きさ、形状により物性を制御することができます。これらはいったいどのようなことが起きているのでしょうか??
私たちは、半導体や貴金属のナノ構造体、および炭素ナノ材料でどのような光化学が起きているのかを、フェムト秒パルスレーザーを使った時間分解分光や顕微鏡を用いた空間分解分光により調べています。さらに、これらナノ材料を組み合わせて半導体-金属ナノ複合構造やグラフェン-半導体量子ドット系を作製し、これらの新規光物性の解明にも取り組んでいます。
また、玉井研究室では自分たちで半導体や金属ナノ粒子を合成するとともに、透過型電子顕微鏡を用いた構造解析も行っており、レーザー等を使った測定だけではなくものづくりに興味のある学生も大歓迎です。

CEO

1. 半導体ナノ粒子の光物性

1-1 量子ドットのキャリア相互作用に関する研究
半導体量子ドット(Semiconductor Quantum Dots)とは? CEO

一般的に存在する物質は電子のような微小的な観点からみると、xyz全ての軸に対して無制限に動く事ができます。このような物質をバルクとよびます。バルクにおける半導体の電子状態は、価電子帯と伝導帯の二つのバンド構造をもち、その間のバンドギャップは物質固有となります。しかし、物質のサイズをナノメートル(10-9乗)サイズまで小さくすると、物質内に電子が限られた波長でしか存在できなくなるため、電子状態が離散的になり、粒子の大きさによってバンドギャップが変化し、バルクとは全く異なった物性を示すようになります。この現象は量子サイズ効果や量子閉じ込め効果と呼ばれています。特に数ナノメートルの半導体粒子のことを半導体量子ドット(QDs)と呼びます。 また、量子ドット内では電子や正孔(総じてキャリアとよぶ)が非常に近い状態で閉じ込められているため、オージェ効果やキャリア増幅などのキャリア間相互作用が顕著に観測されます。このような特徴的な性質から、量子ドットは生態蛍光標識、太陽電池、量子ドットレーザーなどへの応用が期待されています。
玉井研究室では、様々な種類の半導体量子ドットに加え、ナノロッドやナノプレートなど次元性の異なる半導体ナノ粒子を化学的な手法で合成しています。


半導体量子ドットにおけるキャリア増幅 CEO

キャリア増幅(Carrier Multiplication: CM)とは、バンドギャップの2倍以上のエネルギーを持つ光子を一つ吸収して、複数のキャリヤーを生成する現象のことを言います。アインシュタインの光電効果にあるように、一般的にはエネルギーの大小に関係なく一つの光子からは一つの電子しか励起することはできません。高エネルギーで励起した場合には、バンドギャップ以上の余剰エネルギーは内部緩和によって失われます。しかし、特定の半導体量子ドットにおいて、バンドギャップの2倍以上のエネルギーで励起したときに、キャリヤー増幅が起こり、複数の一光子から複数の電子を励起する現象が観測されています(ex. CdSe, PbTe, Si etc…)。この現象は、太陽電池の変換効率の著しい増加などのエネルギー変換分野や量子ドットレーザーなどの分野で非常に注目されています。
玉井研究室では、今まで確認がされてきたCdSeやPbSeなどと同じU-Y化合物半導体であるCdTe量子ドットを用いて逆オージェ効果の観測に成功しており(Y. Kobayashi et. al. Chem. Lett. Vol.38, No.8 pp.830-831 (2009))、これらのナノ構造体形状依存性、また温度依存性行うことにより、それらの閉じ込め効果や内部緩和との関係を調べています。

半導体量子ドットのAuger再結合過程 CEO

Auger再結合とは、励起した電子同士(又は正孔同士)が相互作用して、片方がエネルギーを渡して無輻射的に緩和し、もう片方がより高い状態に遷移する過程のことを言います。Auger再結合は生成したキャリヤーを失活させるだけでなく、イオン化を引き起こして物質の劣化を誘発するため、量子ドットを工業的に応用する上で避けれない現象です。量子ドット内ではキャリヤーが微小領域に閉じ込められているため、それらの相互作用がバルクと比べて顕著に観測され、Auger効果が量子ドットのキャリヤーの緩和過程に支配的に働くことが知られています。Auger再結合速度は閉じ込められている領域(量子ドットの粒径)に応じて変化し、大きくなるほど再結合速度が遅くなることが知られています。また、これらは粒子の直径に対してα乗に比例して増加することが知られています。
玉井研究室では異なる保護剤を用いて合成したCdTe量子ドットにおいて、Auger再結合のサイズ依存性αが異なり、量子ドットのAuger再結合過程が量子ドットの界面構造の影響を受けることを初めて明らかにしました(Y. Kobayashi et. al. J. Phys. Chem. C, Vol.113, No.27, pp.11783-11789, (2009).)。さらに、CdS量子ドットにおけるAuger再結合は、保護剤の種類や表面欠陥によらず粒径の6乗に比例すること(Y .Kobayashi et. al. J. Phys. Chem. Lett, Vol.2, pp.1051-1055, (2011).)や、CdTe量子ドットにおけるAuger再結合はバルクとは異なり温度依存性を示すことを初めて明らかにしました(Y. Kobayashi et. al. J. Phys. Chem. C, Vol.114, pp.17550-17556, (2010).)。


1-2 量子ドットの単一分光

量子ドットは発光効率が高く、また光退色しにくいことから生体蛍光標識などへの応用が期待されていますが、応用の妨げとしてブリンキングという現象があります。ブリンキングとは、量子ドットを単一粒子で発光を測定したときに、時間によって急に発光が消えたりする明滅現象のことを言います。ブリンキングの発生メカニズムは完全には明らかになっていませんが、主な原因の一つとしてオージェ再結合が挙げられます。
玉井研究室では、ブリンキングの周辺環境の依存性を調べるため、空気下、窒素雰囲気下、トルエン蒸気下など環境を変化させてブリンキングがどのように変化するかを調べています。


1-3 半導体ナノ粒子からの効率的電荷抽出
CEO

上述のように、半導体ナノ粒子はキャリア増幅などの興味深い性質から、高効率太陽電池の材料として非常に注目されています。しかし、半導体ナノ粒子内で生成した複数の電荷はAuger再結合によって素早く消滅してしまします。また、太陽電池の高効率化のためには、光励起された電荷が持つ余剰エネルギーを有効に利用する事も非常に重要です。しかし、通常の半導体では、この余剰エネルギーは熱としてすぐに失われてしまうため、従来の太陽電池の変換効率は32%程度が限界となります。しかし、半導体ナノ粒子では離散的な電子状態によって、余剰エネルギーを持つ電荷(ホットキャリア)の失活がバルクよりも遅くなります。そのため、半導体ナノ粒子を太陽電池の材料として用い、ホットキャリアを効率的に取り出すことで、従来の太陽電池の変換効率の限界を上回る性能の高効率太陽電池を開発できると考えられています。そのためには、複数の電荷やホットキャリアを失活する前に外部へ抽出する事が必要となります。
玉井研究室では、様々な種類の半導体量子ドット、ナノロッド、ナノプレートに金属ナノ粒子や有機分子を吸着させ、半導体ナノ粒子からの電荷抽出ダイナミクスを解析しています。これまで、金ナノ粒子を接合したCdSeナノロッドにおいて、CdSeナノロッドから金へのホット電子移動を観測しました(G. Sagarzazu et. al. Phys. Chem. Chem. Phys., Vol.15, pp.2141-2152, (2013).)。また、PbS量子ドットに金ナノ粒子を接合させた系では、金ナノ粒子への超高速電子移動を観測しました(T. Okuhata et. al. J. Chem. Phys. C, Vol.119, pp.2113-2120, (2015).)。さらに、CdSeナノプレートに有機分子を吸着させた系では、分子がナノプレートのどの面に吸着するかによって電子移動速度が異なることを明らかにしました(T. Okuhata et. al. J. Chem. Phys. C, Vol.120, pp.17052-17059, (2016).)。


1-4 半導体ナノ粒子-フォトクロミック分子ハイブリッド系の光物性
CEO

現在準備中


2. 貴金属ナノ構造体の光物性

2-1 金ナノ構造体のプラズモンダイナミクス CEO

金などの貴金属に特定の波長の光を当てると、貴金属内に多数存在する電子が電磁波に揺さぶられて集団運動を起こします。このような電子の集団運動のことをプラズモンとよび、特に貴金属表面に発生するプラズモンを表面プラズモンと呼びます。表面プラズモンは周辺の電場を増強し、発光やラマン散乱を著しく増強する作用があり、表面プラズモン共鳴法という新しい測定方法まで確立されており、近年増強場を用いたウィルス抗体検知などへの応用が実用化されています。しかし、プラズモンにはまだ明らかになっていないことが多く、これらをより本質的に理解する基礎研究が必要とされています。
玉井研究室では、電子線リソグラフィーを用いて描画したナノメートルオーダーで間隔を制御した金ナノキューブ(Fig. 4(上))を北海道大学三澤研究室から提供してもらい、金と金の間のナノメートルの間隔を変えたとときにプラズモン振動ダイナミクスがどのように変化するかをフェムト秒過渡吸収分光を用いて明らかにしました(L. Wang et. al. Appl. Phys. Lett. Vol.95, pp.053116 (2009) )

2-2 プラズモンダイナミクスの媒質依存性 CEO

現在準備中


3. 炭素ナノ材料の光物性

3-1 SiC上に成長させたグラフェンの光物性 CEO

鉛筆の芯に使われるグラファイト、ボーイングの機体に使われる軽量かつ強靭な炭素繊維など、近年身の回りに炭素を基にした材料が盛んに開発されています。その中でも特徴的な物性を示すことで注目されているのがグラフェンという物質です。グラフェンは炭素原子から成る平面六角形を並べたシート状の構造をとっています(Fig. 3(左図の上部))。グラフェンは1原子層の厚みであるにも関わらず、機械的にも化学的にも安定な物質であり、また熱的・電気的伝導性が高いことも示されています。従来デバイスに用いられているSiの電子易動度は約1,000 cm2/Vsに対して、グラフェンは20,000 cm2/Vs、理想的には200,000 cm2/Vsに達すると言われ、超高速トランジスタ等への応用に期待されています。
玉井研究室では同大学物理学科の金子研究室と共同で研究を行っています。金子研究室が単結晶SiCの表面を超高真空雰囲気下・2000℃を超える高温加熱処理してグラフェンを作製し、玉井研究室にて共焦点顕微鏡とレーザーを用いた2次元空間分解ラマン分光でグラフェンの品質・欠陥等の評価を行っています。下図はグラフェン成長時の異なるアニール温度に対するラマンスペクトルを示しています。アニール温度が1400℃の条件下からsp2炭素原子の伸縮振動によるGバンド、環状sp2炭素原子のbreathing modeによる2Dバンドが観測されました(Fig. 3(右))。さらに、時間分解分光を用いて、SiC上に成長させたグラフェンのフェムト秒スケールのキャリアダイナミクスを測定し、グラフェン層数や基板の種類がダイナミクスに及ぼす影響を解析しています。

3-2 CdTe量子ドット-グラフェン間の相互作用 CEO

現在準備中


バナースペース

基本情報

玉井研究室はW号館1階にあります
コアタイムは月曜~金曜の10:00~19:30です

研究室訪問はいつでも歓迎しています。ご質問があれば気軽にお越しください。
以前のHPはこちらから