関西学院大学理工学部の尾崎壽紀専任講師は、米国ブルックヘブン国立研究所のQiang Li(チャン・リー)グループリーダーらとの共同研究により、鉄系薄膜の超伝導特性を大幅に向上するイオン照射手法を見出しました。従来は磁場中における臨界電流密度Jcを向上させるために、高いエネルギーで重い元素のイオンを照射する手法が主流でした。尾崎らは逆転の発想により軽い水素イオン (H+)を極めて低いエネルギーで、しかもアルミ箔で覆って散乱させながらソフトに照射することにより、結晶中に細い短冊状の欠陥とその周りに格子歪を生じさせ、臨界温度TcとJcの両方を向上させることに成功しました。鉄系超伝導体においてイオン照射によるTcの上昇は世界初であり、Jcは4.2 K(ケルビン)(液体ヘリウム温度)で2倍、12 Kでは、特に高磁場で1桁向上しました。超伝導体のJcが上がると同じ断面積でも大電流が流せるようになります。この低エネルギーイオン照射は他の超伝導材料にも適用可能であり、装置も小型化しやすく産業応用に向けた新機軸となることが期待されます。
この研究成果は10月6日発行の英国Nature Publishing Groupのオンライン科学雑誌「Nature Communications」に掲載されました。詳しくはプレスリリースをご覧ください。
【論文タイトル】
A route for a strong increase of critical current in nano strained iron-based superconductors(ナノ歪みを導入した鉄系超伝導体における臨界電流の向上の方法)
【著者名】
Toshinori Ozaki, Lijun Wu, Cheng Zhang, Jan Jaroszynski, Weidong Si, Juan Zhou, Yimei Zhu, and Qiang Li
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