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2003年度 博士論文・修士論文の要旨

修士論文

Electronic structure of acceptor-donor complexes in silicon

Hayafuji Lab. Eisaku Atoro

ULSI(Ultra-Large Scaled Integration) applications, where the critical dimensions of tansistors are scaled into the deep sub-micron regime, inevitably require stricter processing conditions in channel doping of steeply retrograde buried layers and junction formation of ultra-shallow source/drain areas. Although boron B has been commonly used as an acceptor dopant in silicon Si, there is a lot of room for improvement in the use of B in ULSI applications. So, our goal is to find out a boron-alternative acceptor which satisfies the conditions necessary for dopant.

From this perspective, the electronic structure of trimer acceptor-donor complexes in Si clusters is studied using the ab-initio Discrete Variational-Xα molecular-orbital method. The trimer complexes In2D consist of two indium In acceptor elements and a centered donor element D from the group V elements. Results indicate that the trimer complexes act as shallower acceptors having smaller ionization energies than In acceptor. The potential of In2D as an acceptor in Si is then discussed and In2D is proposed as a promising acceptor for the formation of channels and source/drains in ULSI.

超好熱菌由来ピロリドンカルボキシルペプチダーゼのフォールディング反応のNMRによる解析

瀬川研究室 飯村 哲史

タンパク質の折りたたみ過程を残基レベルの分解能で解明することを目的として、著者は好熱菌由来のピロリドンカルボキシルペプチダーゼの研究を行った。このタンパク質は折りたたみ反応速度を非常に遅くすることができる特異なタンパク質で、多次元NMRスペクトルを測定しながらリアルタイムで折りたたみ反応を観測することができる。著者は15Nラベルされたタンパク質を大腸菌から発現・精製し、HSQCと呼ばれる2次元NMRスペクトルの時間変化から、タンパク質が天然状態に折りたたまれる過程をリアルタイムで観測した。その結果、208残基もある巨大なタンパク質でありながら、観測できた100残基以上のすべての部位が同時に折りたたまれる非常に協同的な過程で構造形成が起きることを初めて証明した。その結果をさらに確実なものとするため、著者はタンパク質中のLeu残基だけを選択的に15Nラベルした試料の作製に成功し、この試料のHSQCスペクトルの時間変化から、折りたたみ反応中間体がまったく存在しない完全な2状態転移であることを明瞭に証明した。さらに、折りたたみ反応開始直後のタンパク質はαヘリックス含量の高い非天然構造をとっていて、6個のLeu残基が構造変化の速い無秩序鎖部分に、残り10個のLeu残基が動きの遅いクラスター状態部分に含まれていることを明らかにした。

三次元ナノ構造制御における表面原子拡散機構

佐野研究室 伊藤 桂子

半導体デバイスは急速な進歩を続け、更なる高集積化・高機能化のニーズに応えるべく現在も盛んに研究が行われている。最近ではナノテクノロジーが注目され、ナノメートルスケールでの微細構造制御技術が要求されつつある。

本論文では、二次元薄膜成長法として一般的な分子線エピタキシャル成長法(MBE)を三次元微細構造制御へ展開することを目的に、成長表面での吸着原子の拡散に焦点を当て、その拡散機構の解明に取り組んだ。実験手法としては、吸着原子と反発する安定な酸化膜パターンを表面上に電子ビームを用いて直接形成し、それらで制限された領域内にGaAsおよびAlAs結晶を選択成長させた。そして、この選択成長により形成された微小三次元構造の形状を測定(拡散長に対する指数関数近似)することで巨視的な拡散距離を直接評価することができた。結果として、GaAs表面においては巨視的拡散長が成長時の表面再構成に対して極めて強い依存性を示し、結晶方位に対する拡散異方性のみならず拡散長の絶対値をも精密に制御できることを明らかにした。さらにAlAs表面では、拡散長はGaAsと比較して小さいものの、低温領域において新たな異常拡散現象を発見した。この異常拡散現象は成長時の表面再構成に強く依存した現象であることが、本研究において解明したAlAs二次元薄膜成長機構から明らかになった。これらの知見は三次元微細構造制御に重要な指針・自由度を与えるものと考えられる。

透過型X線反射率法による金属/半導体界面の研究

高橋功研究室 井上 公治

電子デバイスは金属、絶縁体、半導体で構成され、その機能や特性はそれらの界面で発現・決定される事が多い。近年、微細化の進む電子デバイスにとって、界面の重要性はますます大きなものになっており、デバイスの特性制御や性能向上のためには界面構造を原子レベルで理解し制御することが重要である。しかし、デバイスに見られる界面は電極や素子に複雑に覆われており、適当なプローブがないため、ありのままの界面構造を評価することはこれまで困難であった。

本研究では、そのような界面構造を試料非破壊かつinsituで評価できる透過型X線反射率法(TXR)の確立に取り組んだ。TXRとは、これまで薄膜/基板界面の構造評価に用いられてきたX線反射率法(XR)の測定ジオメトリーを透過型へと発展させたものであり、厚膜/基板界面の構造評価を目的としたものである。今回3種類(Au/Si、Ga/Si、Ga/GaAs)の厚膜(金属)/基板(半導体)界面のTXR測定を行い、結果としてTXR法を技術的・理論的に確立することができ、またそれらの興味深い界面構造について知ることができた。Si基板上に作成したAu蒸着厚膜には、表面側と界面側とに電子密度差ができていることがわかり、また液体Gaは、Si基板とは370Kで、GaAs基板とは520Kという低温で反応し、界面構造に変化が現れることを明らかにできた。

シリコン結晶における点欠陥集合体の構造と物性

早藤研究室 川口 真寛

近年、映像素子であるCCD(Charge Coupled Device)は、デジタルカメラ・ビデオカメラおよび携帯電話に搭載され、その市場は急速に拡大している。CCD素子における結晶欠陥は他のシリコン半導体素子と比べ、白傷や黒傷等の画像欠陥として映像に顕著に現れるために、原子レベルでの欠陥の発生および成長の制御技術の開発が望まれる。シリコン半導体の製造過程において、シリコン結晶の固有欠陥である空孔や格子間シリコン及びこれらの集合体は、ULSI(Ultra Large Scaled Integration)プロセスで大量に導入され、その後の熱処理工程中で反応し、成長し、あるいは消滅する。これまで、空孔およびその集合体の電子的および幾何学的構造の決定のために多くの実験が行われてきたが、実験には多くの困難が伴うために、統一的な描像が得られていない。そこで、本研究は、シリコン結晶中における空孔および空孔集合体の成長、安定性および電子的構造を解明することを目的として、格子の全エネルギーおよび電子状態を計算した。VnSi512-nの初期構造モデルとして、従来報告されている球型をはじめとし、種々の立体構造モデルを取り得るが、我々は空孔の集合体としてULSIプロセスで導入され、実験で確認されている(111)面内で平面構造を持つ新しいモデルを採用し、それらのモデルに対してタイトバインディング法とDV-Xα法を用いて、形状による成長安定性、安定構造および電子的構造を明らかにした。

X線反射率法によるガラスの表面研究

高橋功研究室 吉川 寛之

世の中に存在する実にさまざまな物質がガラス状態を形成する。また人類は太古の昔からガラス形成物質を利用して、その恩恵を授かってきた。しかし未だにガラスの性質は完全に解明された訳ではない。長距離秩序をもたないアモルファスのガラスは本質的にあいまいであり、ガラス物質への我々の理解は結晶状態を構成する物質よりも逢かに劣っている。本研究ではケイ酸塩系無機ガラスであるシリカガラス、ソーダ石灰ガラス、パイレックスガラスと多価アルコールに分類されるマルチトールの全部で4種類のガラスの表面構造がどのような温度変化を示すかX線反射率法(XR)を用いて研究した。表面と物質内部とは大きく異なった状態にあるため、ガラス表面でも表面特有のガラス転移現象や緩和過程、結晶化過程などが存在すると期待される。

XRにより今回用いた全てのガラスで表面構造はよく似た傾向の温度変化を示すことがわかった。全てのガラスの表面構造はガラス転移温度以下の温度領域から変化し始め、ガラス転移温度よりも高温領域では著しく変化した。これらのガラスの表面構造変化は温度上昇による粘性の低下のために引き起こされたと考えられる。また冷却過程中に全てのガラス表面でBulkガラスとは異なる電子密度の表面層が形成された。この表面層形成はガラス表面の安定化の1つであり、ガラスがより熱力学的に安定な結晶状態へと移行するときの前駆現象であると考えられる。

GaAs表面におけるプロセス中構造変化過程

佐野研究室 木津 直之

V-X族化合物半導体は、蒸気圧の異なるニ種以上の元素から構成されるため、結晶表面はイオン性に富み、多数の異なる表面構造に変化することから制御が難しい。我々が用いたGaAs結晶表面においては、As供給、蒸発に伴って表面As原子が頻繁に入れ替わり、その間にGa原子の表面拡散が起きている。従って、形成される表面構造は準安定状態であると言え、このような非平衡場におけるAs及びGa原子のカイネティクスが表面構造制御において重要な役割を持つ。そのため本研究では、GaAs(100)における(2x4)内のα-β-γ転移、及びc(4x4)⇔(2x4)表面再構成間での相転移過程に注目し、表面原子ダイナミクス及びカイネティクスの理解を目的とした。

実験では、MBE(分子線エピタキシー)プロセス中でGaAs表面に電子線を低角入射させ結晶表面状態を観察するRHEED(反射高エネルギー電子線回折)を用いた。基板温度の変化速度を厳密に制御し、Ga分子線を供給しないAs分子線供給条件下で、基板温度変化に伴うRHEED強度変化を昇温、降温過程それぞれにおいて測定した。

c(4x4)⇔(2x4)の転移温度が、昇温・降温過程に依存して、また基板温度の変化速度に依存して差異が見られ、再構成間のエネルギー障壁が異なることを明らかにした。その結果、昇温過程は表面からのAs蒸発に律則されていると推測した。また降温過程では、基板温度変化速度に依存してより安定な表面構造への到達度が変化するために、変化速度に依存して転移時のエネルギー障壁が変化したと考えている。

分子内および分子間に形成されるタンパク質の弱い会合状態と折りたたみ反応の初期過程

瀬川研究室 坂本 恵子

タンパク質の折りたたみ反応を残基レベルの分解能で解明することを目的として、瀬川研究室ではこれまで、S-S結合を意図的に欠損させたリゾチーム変異体を作製して、天然立体構造の一部がほどけたタンパク質の構造をNMR分光法によって研究してきた。最近は、安定構造の限界を超えたほとんど無秩序鎖状態にある変異体の研究に重点を移してきた。著者は2本のS-S結合のみを残す変異体(天然状態では4本)を作製しNMRによる構造解析を行った。この変異体はほぼ無秩序鎖に近い非天然構造をしているが、30%のグリセロールを共存させるとαヘリックス含量が大きく回復した非天然構造をとる。タンパク質内のどこで部分構造が形成されているのかを解明するために、D2O中で主鎖NH基の重水素交換反応を行い、交換反応を阻害されるNH基の部位を残基レベルの分解能で解明するために、NMRスペクトル測定を巧みに利用した。その結果、ランダム鎖の中で部分的に秩序構造を形成している部分が、辛うじて安定な立体構造を保っている変異体のコア構造部分と一致している事実を見出した。それはこの部分が折りたたみ反応開始部位であることを強く示唆しており、タンパク質の折りたたみ反応径路を原子レベルの分解能で解明できる見通しが立ってきた。折りたたみ反応と分子間の弱い会合体形成は基本的に切り離せない問題で、会合体形成開始部位の研究も行ったがその報告は割愛する。

半導体表面における非平衡系での2原子種競合過程

金子研究室 真田 俊介

半導体デバイスの微細化に伴い半導体表面の原子レベルでの制御が重要となっている。このためには結晶成長やエッチングプロセス中の表面原子の動的なメカニズムの解明が不可欠である。GaAs、AlAsの成長機構に対して、原子レベルにおけるエッチング機構の研究は遅れているのが現状である。さらに、GaAs、AlAsを混合したAlGaAsにおける原子層エッチングの報告は少なく、あまりよく知られていない。本研究で用いた原子層エッチングは、RHEED観察を通して混晶表面からのエッチング速度も"その場"評価が可能である。実際にAlGaAs表面の原子層エッチングにおいて、エッチング速度は温度領域によりGaAs-AlAs混晶比への異なる依存性を示し、特に低温領域では単体のGaAs、AlAsを超えるエッチング速度を示す非線形な振る舞いが見られた。

本研究では、AlGaAs表面に対する原子層エッチング機構を明らかにすることを目的として、エッチング中に見られるこの"非線形性"の解明を試みた。ここで、これまでに得られているGaAs、AlAsのエッチング機構を基盤として、それらが混合した場合の競合反応について詳細な実験結果をもとに考察を行った。具体的には動的モンテカルロ法を用いることにより、実験では観察が難しい原子種ごとの脱離量の時間、基板温度、混合比などへの依存性を示した。新しい知見として、表面再構成を含む表面モフォロジー変化とこの脱離量が対応した新しいエッチングモードの存在を確認した。

GaAs表面での自己組織化ナノ構造制御

金子研究室 曽我部 隆一

近年、結晶成長技術および微細加工技術の発展に伴い、リソグラフィー、結晶成長等の技術の向上が進められている。2次元薄膜制御として分子線エピタキシー(MBE)法による薄膜成長では原子一層レベルでの制御が可能となっているが、3次元構造の制御ではナノレベルにおいて十分となっていないのが現状である。

そこで本研究において注目したのがMBE法によるGaAs結晶成長時に偶発的に形成されるOval defectと呼ばれる3次元ドット構造がある。MBE法による薄膜結晶成長においてこの3次元ドット構造の形成は平坦性の阻害となるため、その形成を抑制するために様々な研究が行われてきた。しかし本研究においては逆にこの3次元ドット構造を積極的に位置制御し、3次元ナノ構造作製のための成長核に用いるという観点で研究を行った。

本研究においてドット形成プロセスには、分子線エピタキシャル成長法として一般的な二次元成長モード(供給比As > Ga)ではなく、配列化を同時に可能にする三次元モード(As < Ga)を初めて用いた。ドット位置制御プロセスとしてはElectronBeamをGaAs自然酸化膜に直接描画を行った。その結果、GaAs基板上に形成された酸化膜パターン上に、サイズゆらぎの少ないドット構造が選択的に配列することを確認した。これはGa原子の表面拡散長が二次元成長モードより大きいことを意味しており、微細制御のみならず表面機構への理解の立場からも重要な知見と考えられる。

ULSI電極材料用擬似2元系チタンシリサイドの探索

早藤研究室 田中 恵一

MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)のゲート電極材料には、1960年半ばごろにアルミニウム(Al)が用いられ、1960年代終わりには、Alゲートに代わって、poly-Siゲートが用いられるようになった。1970年代に入ると、より低抵抗、熱安定性を得るために、高融点金属とSiの化合物である高融点金属シリサイド(silicide)をゲートとして用いる研究が行われるようになった。高融点金属シリサイドの中でもチタンシリサイド(TiSi2)は低抵抗、熱安定性、そして加工工程との相性の良さから、超LSI(ULSI:Ultra-Large Scale Integrated circuit)の電極用材料として広く用いられてきた。高抵抗のC49 TiSi2(60-70μΩ-cm)は、750-850℃の高温RTA(Rapid Thermal Annealing)によって構造相転移し、低抵抗のC54 TiSi2(15-20μΩ-cm)になる。1,2 ULSIの電極用材料としては、この低抵抗のC54 TiSi2が用いられる。TiSi2電極の問題の1つは、ULSIの電極部の微細化により構造相転移が起こりにくくなる、いわゆる細線効果が顕著に現れることである。たとえば、電極部のサイズが0.15μm以下になると、TiSi2の構造相転移には900℃以上の高温RTAを必要とする。しかし、このような高温RTAは、シリサイド膜やSi基板に熱的なダメージを与え、ULSIプロセスでは使えない。本研究は第一原理計算であるDV-Xα分子軌道法3によって固有値と電子状態を計算し、その結果より構造相転移温度が低くかつ、電気伝導の大きい擬似2元合金を探索することを目的とする。

1S.P.Murarka,J.Vac.Sci.Technol.17,775(1980).

2R.A.Haken,J.Vac.Sci.Technol.B3,1657(1985).

3H.Adachi,M.Tsukada,and C.Satoko,J.Phys.Soc.Japan,45,874(1978).

電子線照射によるGaSb微粒子の二相分離

澤田研究室 畑 重成

粒径がナノメートルサイズの微粒子は、バルク団体と比べて特異な性質を示す。そのような性質の1つとして、高速合金化(微粒子においては、バルクに比べて10万倍の速さで合金化が起こる)という現象がこれまでに発見されている。さらに最近になって、GaSbの微粒子では高速合金化の後に電子線を照射し続けると、条件によっては2相分離が起こるという現象が発見された。本研究はこの2相分離のメカニズムを理論的に解明しようとする試みである。用いたモデルは、バルクのGaSb結晶のエネルギーバンドの実験結果を良く再現できるような半経験的モデル(Tight-bindingモデル)である。これを用いて径が10ナノメートルほどの2つのタイプの構造のGaSbクラスターの電子状態を計算した。一方はGaSb結晶から一部分を切り出して出来た混合クラスター、他方は内部にSb原子、表面にGa原子が集まった2相分離クラスターである。計算の結果、電子が基底状態にあるときは混合クラスターの方がエネルギーが低く、一方電子が励起された状態(電子線が照射されて生じる状態に対応)では2相分離したクラスターの方がエネルギーが低いことが示された。この結果から、問題にしている現象が起こる理論的可能性が示された。ただし、モデルの妥当性やメカニズムの詳細の理解など、まだまだ解明すべき問題は残されている。

V-X族化合物半導体の表面酸化膜の組成制御

金子研究室 服部 聡子

半導体基板表面を覆っている酸化膜を制御することは、半導体基板上に電子デバイス・微細構造等を作製する上で非常に重要なプロセスとなる。実際我々は電子ビームによりGaAs基板表面の酸化膜を改質し、結晶の選択成長・エッチングのマスクとして用いる、微細構造作製に適したプロセス法を開発してきた。本研究はGaAs表面に存在する自然酸化膜に対して、その組成制御および膜厚評価を"その場"で精密に行うための手法の提案と、その応用として高温高圧の水蒸気環境を新たに導入し強制的に膜質を改変した酸化膜の評価を行ったものである。

一般に、GaAs酸化膜は三元化合物(Ga-As-O)であることから複雑な相図を有し、相図中の複数の熱的に安定な酸化物に関して系統的な知見は少なく"制御"には至っていない。本研究が目指した酸化膜制御とは、外部から一原子層分のGaの分子線を直接照射して酸化膜との反応を促し、そのときの単原子層単位の反応過程をRHEEDにより"その場"観察するものである。その結果、表面での反応は二次元的な平均像としての還元反応ではなく、複数の局所的反応の競合により(Ga液滴の凝集による局所的還元反応+未反応酸化膜領域の二次元化)進行することが明らかになった。本知見により、GaAs酸化膜の詳細な還元反応および脱離機構を表面モフォロジーの発展と関連付けをすることができた。

マルチエージェント間の交渉による修正の連鎖を用いたスケジュール作成

高橋和子研究室 桝村 友哉

会議室の予約や授業の時間割の作成は非常に手間のかかる作業であり、これらの問題をエージェントを用いて自動的に解決させることは有意義なことであると考えられる。しかし、この問題は一般にNP困難とされ、その解決にはざまざまなアプローチが存在するが、いずれも計算量と解の妥当性については改良の余地がある。

本研究では、参加者をエージェントとみなし、各エージェントが自らの要望を言い合うことによって、全員が満足できるスケジュールを得る連鎖的解決法を提唱する。この方法では、最初に任意の案を与え、それに不満を持つエージェントが自分の要求を満たすような代替案を提案する。代替案を生成する主導権を連鎖的にまわしながら、徐々に全員が満足するような解に近づけていくものである。このプロセスがある程度すすむと、最後に全員の要求を聞いて調整を行う。

この方法によって、全エージェントの要望を満たす解がある場合は、できるだけ少ない交渉回数でそれを求め、解が無い場合も、各エージェントが譲歩して要望を弱めることにより、できるだけ少ない交渉回数で合意点に達することができる。

この方法の特徴は、参加者全体が問題解決に取り組まなければならないような問題に対して、2者間の交渉を連鎖的に行うことにより、参加者全体を交渉に巻き込みながら問題の解決をはかることである。これによって、従来解決できなかった2 者間の合意形成による交渉だけでは解決できない問題に対しても最適解を求めることができた。

SrTiO3(001)表面の105K相転移 −表面薄膜の効果−

高橋功研究室 松下 聖彦

我々は過去にSrTiO3105K 相転移の臨界挙動において、(001) 表面とバルクで異なる臨界指数を観測した。当時その原因として表面とバルクで異なる次元性や応力の異方性を考えた。

本研究では初めにSrTiO3(001)表面上にBaTiO3薄膜をエピタキシャル成長させたサンプルを用いて、BaTiO3薄膜/SrTiO3基板界面の臨界挙動を調べた。BaTiO3薄膜で覆われたSrTiO3(001)基板表面(BaTiO3/ SrTiO3界面)の次元性や応力の異方性はバルクのそれに近づくと予想できる。結果は界面とバルクの臨界指数がほぼ同じ値で、またそれは3次元モデルの計算値に近い値であった。このことは表面と界面の次元性の違いが臨界指数の変化に繋がったことを示している。しかしここで臨界指数の変化に緊がる原因がもう一つある。それはSrTiO3が一軸性応力上で複雑な相図を持つことから、その界面に発生している応力の臨界挙動への影響である。そこで次にBaTiO3薄膜とは界面応力が異なるポリスチレン薄膜を基板表面に塗布し、その界面の臨界指数の観測を試みた。

105K相転移の臨界挙動を変化させるのは、次元性か界面応力かという謎は興味深く、また薄膜による臨界挙動の変化は、基礎・応用共にSrTiO3の新しい価値を与えるものであろう。

In2O3中への不純物ドーピングによる超低抵抗化ドーパントの探索と電子物性

早藤研究室 山下 和芳

液晶やプラズマを代表とするフラットパネルディスプレイ(FPD) は、近年、大型化や高精細化というように著 しい発展を遂げてきている。しかし、その一方で発熱量や消費エネルギーの低減化が大きな課題のひとつとなっており、その為、FPDの透明電極に用いられているITO(Indium Tin Oxide)には更なる低抵抗化が求められている。ITO は、酸化インジウム(In2O3)にスズ(Sn)をドープした物質であるが、これまでにSn以外の元素をドープしてITOよりも低抵抗を実現した実験報告は見当たらない。そこで本研究では、ITOよりも低抵抗の透明導電膜材料を設計・開発することを目的とし、50種類以上の元素の中から画期的に低抵抗化を実現する可能性が高いドーパントの探索を行なった。その結果、12種類の元素がSnよりも浅いドナー準位を形成し、ITOよりもキャリア濃度が高い可能性を持つことが我々の電子状態計算の解析結果から明らかになった。しかし、それらの元素の回溶限等を考慮した結果、ドーピング効率が最も高くて低抵抗の単独ドーパントはSnであるという結論に至った。そこで我々は、n型ドーパントのSnとp型ドーパントの窒素(N)を同時にドープするコ・ドーピング法によって、更なる低抵抗化を検討した。その結果、In2O3中にSnとNを2:1の濃度比で同時ドーピングした物質は、ITOよりも低抵抗の新しい透明導電膜材料として非常に有力な候補であることが明らかになった。