関西学院大学理工学部 物理学科 |
図は、自然界の構造物をその「サイズ」と「密度」で並べたものです。思いのほか規則正しく 3本の線上に並んでいます。これらの 3本の線に応じた物理学の分類が、「素粒子物理学」、「物性物理学」、そして「宇宙物理学」です。これらは研究対象(モノ)に応じた分類です。
ところで、私の主な興味は強い重力現象と量子系の古典化現象(量子性から古典性を導く問題)を理解することです。そのための基本的な道具として相対論と量子力学(場の量子論)を主に使いますが、2つの現象には「非平衡・不可逆現象」という共通点があるため、必要に応じて非平衡物理学の手法を用いることもあります。
重力が絡む現象の典型例は天体現象ですが、一般相対論を要せず理解できる現象が多くあります。その一方、重力が本来関与しないにも関わらず、一般相対論的な記述が適切となる物性現象があり、この現象を利用して、天体現象としては現実に検出の難しいブラックホール輻射の理論的予言を実験室で検証しようとする試みがあります。
また、量子系の古典化現象は、元々、量子力学の解釈にまつわるミクロな物理現象の問題でしたが、マクロな宇宙の大規模構造の"種"となる量子揺らぎを確定させる問題とも関係します。量子力学の確率解釈は不思議で、学生の頃から興味をもっている問題です。
このように、素粒子/物性/宇宙といった対象(モノ)そのものより、様々な現象の背後に潜む共通の性質や機構(オモチャ)の理解に私は興味があります。
様々なものに興味がありますが、実際に何かを研究するときは、もちろんその問題に集中します。現在、興味を集中し研究しているのは「ゲージ/重力対応」予想の応用です。この予想は「強結合な場の量子論と 1つ次元の高い古典的な負曲率時空の重力とが等価である」と主張するもので、超弦理論の研究から生まれました。
粒子間にはたらく力の強い『強結合な場の量子論』の解析は非常に難しいのですが、「ゲージ/重力対応」はこの難問を比較的扱いやすい重力の問題に変換するので、この予想が正しければ、我々は難問に対する有効な研究手法を手に入れたことになります。そこで、この予想が正しいと仮定したとき得られる結果を明らかにする"応用研究"が盛んです。 (もちろん、この予想を証明する研究も進められており、その正しさを示すいくつかの証拠が見つけられています。)
応用研究例として、クォーク・グルーオン・プラズマ(QGP)や高温超伝導の解析があります。ともに重力を無視できるという点は共通ですが、前者は素粒子現象で後者は物性現象と異なる現象にもかかわらず、「ゲージ/重力対応」ではこれらをブラックホールの性質を用いて解析します。このように、「ゲージ/重力対応」は、「素粒子物理学」、「物性物理学」、「宇宙物理学」を結び付ける分野横断的な研究です。また、この対応は、(我々の住む)3次元空間の問題を 4次元空間の問題に結び付けるので、しばしば「ホログラフィック対応」とも呼ばれます。
このように、「ゲージ/重力対応」は異質なものを結び付ける興味深い対応で、(私が)よく理解できない点も多いのですが、それゆえとても魅力を感じ研究を進めています。