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数学専攻の紹介

なぜ数学的思考が必要か?

私達の周囲を眺めますと、恩恵を享受している文明の利器に溢れています。 ディジタル・テレビ、DVD、コンピュータなどはその一例ですし、物でなくても天気予報は毎日傘を用意するべきかどうかを確率で示してくれています。 皆さんは、これらの背後にある原理を知っているでしょうか。 知らなくても使いこなせればよいとも言えますが、それでは進歩がありません。 現在では良いと考えられていても、将来それが悪くなることはいくらでもあります。 例えば、半世紀前の農薬は収穫量を飛躍的に増加して歓迎されましたが、環境破壊を引き起こし、環境を修復するという重荷を後世に残すことになりました。

ディジタル・テレビやコンピュータでは2進法の考えが使われています。 スイッチのオン・オフが0と1に対応するわけですが、画像や文書は0と1の気の遠くなるような長い連鎖に翻訳されて伝達されていきます。 何かの拍子でこの連鎖の伝達が飛んで誤って伝わったらどうなるでしょうか。 ディジタル化されたものは正確であるという印象が強いのですが、直線的に続く伝達が1文字の欠落によって狂うということを考えれば、如何に脆弱なものであるかは容易に想像できます。 このような脆弱性を回避するために、背後では伝達のミスや誤動作を修復する機構が働いているのです。 その理論構成には符号理論と呼ばれる数学があります。

天気予報で言えば、時として予報が外れることもありますが、日常の生活に十分活用されています。 気象は地球大気の変動をいうのですから、地球規模の大気の動きを調べる必要があります。 これはディジタルの世界とは異なって、大気、太陽活動、海洋など多数で複雑な要素が連続的にまた突発的に関与しています。 しかし、基本になるのは流体方程式という微分方程式をどのように解いていくのかにかかっています。 天気予報もこの方程式の近似解の精度を向上することにあるといわれています。

現時点で機能している機械やシステムを使いこなすことは必要なことですが、得てして、データを入れて答えを待つという受身の姿勢になりかねません。 高等学校の数学や物理などの教科で、公式を記憶して、その応用方法に習熟するという学習に陥っていることはありませんか。 このような公式記憶主義では新しい変化についていけません。 その公式がどのような考え方に基づいて導き出されたかを理解したうえで、それを適切にまた柔軟に応用することが大切です。 数学的思考というのは、このような考え方や態度をいうのです。 私達が必要と考える教育は、将来の変化に対応できるとともに、積極的に変化を起こそうという人材を育てることです。

数学はどのように発展してきたか?

私達が日常に使っている数字や数え方は必ずしも大昔から確立していたものではありません。 現在日常で使われている10進法はインドで発見されたといわれます。 1, 2, 3, …と数えて9に到達したならば、次の数を10と2桁の数字で表わすのです。 そのとき、1桁目の0は大変有用な働きをします。 簡単に言えば、両手を使って数えて一杯になったら、それを1括りとして横において、新たに両手を勘定に使えるように空にする操作です。 これは、100, 1000, …といくらでも大きい数に適用できる考え方です。 それを0を使って表したところに進歩がありました。 これはゼロの発見とも言われています。 このような記法がヨーロッパに定着するのはルネッサンス以降の近世になってからです。

この時代には大航海時代が重なっていますが、見知らぬ海洋に出かけるとき測天儀とコンパスは必須の道具でした。 それも正確な位置測定のためには小数点10桁というような正確な数字とそれを使った三角法の計算が求められました。 計算機のない時代に人力で、しかも、短時間に計算することを求められるという中で、対数法がネーピアによって発明されたことは良く知られています。 その真髄は掛け算が膨大な計算を要するのに反して、足し算の計算量の少なさに着目して、掛け算を足し算で行おうというものです。 現在、ナノの時代といって、原子サイズの10-9メートルの世界を表しますが、これは正に対数的記法の恩恵でしょう。 皆さんが高等学校で勉強した数学は近世以降にヨーロッパを中心に発展したものです。

アラビア数字とともに、このような西洋数学が日本に導入されたのは、わずか140年前の明治維新以来です。 現在、日本は数学で世界をリードする先進国ですが、それは数学的思考法を日本に定着させる努力を積み重ねてきた先人の結果に他なりません。 数学は国境のない学問であるとよく言われますが、一国から優れた数学者が多数輩出できるかどうかという点では、国民の性格をよく反映する事柄です。 ひとつの疑問が生じたならば、我慢強くそれに執着して自分が納得するまで考え抜くという性格が必要です。

大学ではどのように数学を勉強するのか?

皆さんは既に気づいていると思いますが、算数や数学の取り扱う内容は、小学校・中学校・高等学校でかなり重複して反復されているのです。 何が違ってきているかというと、上の学校になるほど、より深く考えて原理にたどり着こうとしているのです。 同じ意味で、大学で学習する数学も大きく変わるところはありません。 ただ、対象の深さと取り扱う幅は格段に深く広くなっています。 しかし、焦ることはありません。 一つの理解は次の理解につながっていきます。 数学は、分からなくなった時点で遡って昔の教科書または参考書を紐解けばよいのです。 何年も苦労してきた道を遡るのはもういやだという人も多いと思いますが、如何に簡単に理解できるか驚嘆すると思います。 もう一つ、大学では新たなことを自ら学ぼうとする意欲が必要です。

数学は公理だとか定理だとか抽象的なことが多くて直感が効かないから厭だという人もいるかもしれません。 そういう数学の形態も確かにありますが、数学の根底が自然の観察と理解に根ざしていることは言うまでもありません。 物理や化学の実験では、比較的狭い分野に対象を限定して深く掘り下げながら新たな真理に到達するという方法が取られますが、数学でも同様に具体的モデルや例が大切になります。 それらは自然の状態を純化している場合もありますが、数学的必然に基づいて提示されている場合もあります。 これらのモデルや例を深く観察しながら、新しい事実を発見し、それがどれだけ一般的真実であるかを検証していくのです。 その過程で定理を記述し、証明をすることになるのです。

これから分かるように、どれだけ良いモデルや例を見つけるかが将来の発展を大きく左右する要素になります。 つねに自然をモデルにすることが一つの方法です。 私達は、幸いにして物理学科の中に属しており、大学の低学年では物理専攻の学生とともに基礎物理学や基礎実験を学修します。 これらは直接的に数学の学修に結びつかないかもしれませんが、将来、数学的思考を実践するに当たって座標系の原点を示すことにもつながる働きをすることになるでしょう。

頭脳を使う学問としての数学

このように自然科学や社会科学の素養が必要であることは、物理学にとどまりません。 最近ではDNAなどがもつ遺伝情報の解析に数学を積極的に使っていこうという動きもありますし、金融市場における資本の流れを数学理論で処理する分野も経済学の中にあります。 このように数学を使おうという傾向はもっと多くの分野で出てくるでしょう。

それは具体的観察に基づいてモデルを構成し数学的検証を加えるのが、上に説明したように、自然な流れであるからです。 最近は、特にコンピュータで大規模なデータの処理が可能になったり、コンピュータ上で理論を検証するシミュレーションが可能になってきていることも、その傾向を助長しています。 その様な場合には、数学的素養と数学的センスが重要になってくることはいうまでもありません。

従来からも、大学で数学を修めた学生はどのような分野に就職しても、その思考の柔軟性と論理性の点で高く評価されてきました。 物事を根底に戻って全貌を見ることができれば、対処すべき方法も自ずから見えてくるからでしょう。

日本の政府は科学技術によって国の振興を図ることを基幹の政策としていますが、将来の科学技術を支える人材の養成に当たって、数学が占める割合は決して小さいものではありません。 特に、数学教育が小・中・高等学校で占める割合は決して減ることはないでしょう。 基礎をしっかりと理解し、決して公式記憶主義に陥ることがない先生がこれらの数学教育を担当することに、国の将来はかかっていると言えましょう。 立派な先生を養成することは数学専攻の昔から変わらない目標の一つです。

物理学科数学専攻の教育

関西学院大学では、従来からも、数学と物理学の両面にわたる素養を備えた人材を養成することを伝統としてきました。 物理学科は数学専攻と物理学専攻の二つに内分されていますが、この伝統的考え方は変わるところがありません。 数学専攻の定員は35名ですから比較的早期から少人数教育を行うことは可能ですが、物理学科全体の定員110名の中で自然科学教育を受けることから始まります。 大学時代に知遇を得た友人は生涯の友であると言われますが、できるだけ大勢の、少しずつ視点の異なる人たちが集まって学修に励むということが必要であるというのが一つの理由であり、上に説明したように数学を自然科学の背景の中で考えられるようにするというのが別の理由です。

高学年になるにつれて、代数学、幾何学、解析学などを中心とする現代数学の基礎理論を修めることになりますが、それを、自然科学、情報科学、工学などの分野に応用していく力も同時に養うことを目指します。

数学専攻の特徴の一つは肌理(きめ)細やかな教育で、教科書のほかに、副教材を追加しての学修支援、宿題とそのチェックによる自習の支援とがあります。 ティーチング・アシスタントと呼ばれる、教員の教授支援を行う大学院生を多く配して、学部学生の学修を助けています。

学部の最終学年には卒業研究(数学特別研究)が比重の大きな科目になります。 1人の先生に5−6人以下の学生を配して、外国語の教科書を読んだり、コンピュータを使った実験学習を行ったりします。 単位数も大きく、卒業研究を終えることで、学生は大きくなっていくことができます。