文部科学省科学研究費補助金「新学術領域研究」平成22年度〜26年度

ENGLISH

動く細胞と場のクロストークによる秩序の生成

領域代表あいさつ

領域代表 宮田 卓樹「動く細胞と場のクロストークによる秩序の生成」後半戦に向けて
2013年4月

 発足から2年9ヶ月が経過して迎える新年度,本領域は,前半期に得た数々の「芽生え」「生長」を活かしつつ,中間評価時に審査員各位から頂戴したエンカレッジメントを糧として,さらに伸び続け,繁り・実りをめざします.  
 H25-26年度期の新しい公募研究代表者が決まりました.多様な「動く細胞」に対して分野横断的,階層縦断的な取り組みを行なうことのできる布陣です.全国から大変多くの方々にご応募いただき,きわめて熾烈な選考となりました.細胞の動きの意味を問う研究,理論的研究など, 36名のメンバーが決まりました.  
 計画研究の6名は,総括班として領域内のまた領域間の交流に務めるとともに,学術の先鋭化のためにベストを尽くす覚悟です.  
 合計42名からなる本領域は,「場に対する肉薄・俯瞰のスピリット」と「数理的抽出への強い意欲」を「多様性」という領域構成上の特徴にかけ算する研究姿勢によって,「多細胞による秩序生成」についての新しい理解境地をめざします.

領域代表 宮田 卓樹(名古屋大学大学院医学系研究科 教授)

                                          



「本領域を始めるにあたって」 
2010年4月


本領域は、「動く細胞と場のクロストーク」への興味、「ゆらぎから秩序の生成」の原理の理解をめざす意志、他の系に対する深い関心・学びの意欲にもとづいて集った個性ある研究者による連携によって成り立ちます。個別研究にはそれぞれ強い個性がある一方で、そうした多様な得意技、アイディアが領域内を縦横無尽に走り、あたかも自分たちが「ゆらぐ細胞たちとしてぶつかり合う」かのごとくに刺激を与え合うという点に、独創、創発の土壌としての本領域の意味があります。

私は、脳形成の原理に挑み始めたばかりの90年代、ニューロンなど分化細胞の産生源である神経前駆細胞の挙動を「低密度培養法」という方法で調査しました。それは脳原基の分解すなわち本来の三次元世界の崩壊によってプラスティック皿上に得られる個別観察性に基づいてのなかば半強制的な能力検査であったため、その後、彼らの「本来の生活」をこそ調査すべく、三次元培養法・組織中イメージングを開発してきました。そして神経前駆細胞「個」の「組織中の動き」をようやく扱えるようになったことでさまざまな新しい問い(「動きの集まり」の意味を知りたいなどの願い)が現れました。それが今回の領域発足をめざすうえでの個人としての学問上の原動力となりました。

本領域の研究項目間、研究者間の交流を通じて、不得意域・未体験域での「眼からウロコ」的発展を期待します。「交流」にはさまざまなレベル・規模が考えられますが、例えば私は、神経前駆細胞の挙動解析を林によるショウジョウバエ気管上皮の観察や木梨が行なうリンパ球と抗原提示細胞の出会いの観察系に倣って行ないたく思い、西脇(「線虫の生殖巣形成における上皮と基底膜のクロストーク」研究代表者)の詳しい「周りを溶かしながら細胞が動く」ことに驚かされるとともに細胞内イメージングを参考にしたいと願います。さらに仲嶋(「動いて脳を作る細胞群の動態制御機構」研究代表者)の見つめるニューロン達の活動が神経前駆細胞の働きに影響を与えるか、ゆらぎが危険回避に貢献する粘菌のような知恵が神経上皮に潜むかなど、自問させられます。一人では、また一つの学会の範囲内での交流を通じてでも今までにあまり不思議に思ったこと、まともに意識したことのなかった事象が、重要な問いとして次々に眼前に現れてくる知的高揚感があります。これは学会の専門性を越えた異分野間の交流のもたらす重要な点であると思うのですが、こうした期待感、好奇心をぜひ領域全体の推進力としたいと願っています。

「動こうとする個たちが集いながらいかに全体のはたらきやかたちが生まれてくるのか」という問いを仲立ちとした班員間の交流が、日常的に計画研究、公募研究のすべての構成員の間に生じ得るよう、努力していきます。班員間の有機的な交流には2つの事柄が重要と考えます。まず、各々の「個性」の徹底的な表現を願いたいです。一方、相互理解のために、班会議などにおいて「分からないことの率直な表明、素朴な問いかけ(素人質問)」を尊重し合いたいです。細胞たちが自らも含めた「場」とどう向き合い、「奔放さ」を忍ばせ密かに活かし、折り合い、秩序に至るのかを問うこの新しい研究領域「動く細胞と場のクロストークによる秩序の生成」が、自由な発想のあふれる若人を多く惹き付けられるよう、代表として努力してまいります。

領域代表 宮田 卓樹(名古屋大学大学院医学系研究科 教授)

Copyright ©2010 文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「動く細胞と場のクロストークによる秩序の生成」