【はじめに】
2008年4月に研究室がスタートしてから、もうすぐで五年が経ちます。スタート当初は大工仕事やペンキ塗りなど研究室の立ち上げに奔走してきましたが、研究設備や人員構成の面で落ちついて研究ができる環境が整いました。
現在のメンバーは、M2: 8名、M1: 5名、B4: 5名です。有機化学をベースとして材料科学・生命科学の発展に貢献することを目標に、新規有用有機分子の革新的な合成法の開拓を研究の柱として、研究室メンバーが一丸となって研究に取り組んでいます。最近では、研究の進展とともに熱心に研究に励む姿や互いの研究について活発に議論し合う姿などが頻繁に見られ、研究室の積極的なカラーが出始めています。毎年恒例となった5大学合同セミナーでの口頭発表や日本化学会新領域研究グループ(有機合成を起点とするものづくり戦略, URL: http://orgsynth.csj.jp/)での活動など、研究室のアクティビティーも年々増しています。また、研究は勿論のこと、ソフトボールなどの“息抜き”もちょこちょこあり、メリハリのある元気で明るい雰囲気があります。


【研究内容】
研究者の卵として卒業研究に取り組む皆さんは、研究生活に対してそれぞれの期待・思いがあるかもしれません。私達の研究室では、「ナノメートルサイズの有機分子」をいかにして組み立てるか(合成方法論の開発)、そして、手にした分子をいかにして操るか(機能探索)、について日々研究を行っています。有機化合物は、炭素-炭素結合(結合長:0.15ナノメートル)が調和しながら組み合わさって作られるミクロの建築物と言えますが、建築物の色・形・様式といった個性が重要な化学的性質(機能:高分子材料・電子材料、生理活性:医薬・農薬)と密接に結びついています。実際のターゲットの作り方は全く自由です。自由にアイデアを巡らして建築物のうまい組み立て方を考案し、実践する、のが研究のおおまかなながれです。
具体的な内容としては、有機電導体や有機磁性体に代表されるπ共役系有機化合物の汎用的かつ実用性の高い合成法の開発を研究の柱の一つとして位置づけています。π共役系有機分子は物性科学・材料科学・生命科学における重要な物質群ですが、実はこうした分子を構成する芳香環・複素環化合物の合成には、未だ制限があり、これまで新しい物質を創製する機会が大きく阻まれてきました。これは、望みのもの(原子・分子)を望みの場所に、望みのタイミングで導入(結合)させる合成手法の欠如と、合成化学によって精密に構築できる空間が、まだまだ小さいことに由来しています。このため、新しい物性や機能の宝庫であるπ共役系分子をナノ領域のレベルまで精密に、しかも自在に合成できる新しい合成方法論の開拓が望まれているのです。このような背景の下、私達は “潜在的に高い反応性を持つ分子”を取り上げ、その化学的性質について詳しく調べています。ここで言う、“高反応性分子”とは、幾何学的にひずんだ形を持つ小員環化合物や芳香環に三重結合を含むベンザインのようにエネルギー状態の高い分子を指します。そのため、これらの分子はその取り扱いによっては、自発的に反応してしまったり、壊れたりしますが、その性質をうまく引き出すことができれば、これらの独特の個性が発揮され、これまでにない革新的な合成手法の開発が可能になるのです。


【おわりに】
世の中に存在しない分子を世界で初めて合成し、新しい機能を引き出す。そこには、これまでの物質科学を一変させる程の発見があるかもしれません。普段の授業では決して味わうことのできない知的好奇心に満ち溢れた探求作業:有機合成化学の研究、に興味のある人は、本館2階にある研究室を是非のぞいてみて下さい。