超伝導磁石NMR分光器

関学のハイテク・リサーチ・プロジェクトで共同利用施設として導入された600MHzのNMR分光器です。左側に見えるのが超伝導磁石、その中心に5mm径のガラス管に入った0.3mLのタンパク質溶液を置きます。タンパク質中の1H、15N、13Cという3つの原子の核磁気共鳴スペクトルを同時に測定できます。右側の箱型のものがNMR分光器です。電波を発生し、ケープルを通して磁石の真中にあるサンプルに照射します。磁石内のサンプルが発生する電波信号を再びケーブルを通して分光器が観測し、その右隣のコンピュータがデータを解析します。
パルス・フーリエ変換・NMRの測定原理
パルス・フーリエ変換・NMRという測定方法では、パルス状の電磁波をタンパク質に照射します。それに応答してタンパク質はFIDという電気信号を返してくるので、それをコンピュータに読み込んでフーリエ変換し、FID信号の周波数スペクトルを測定します。それはタンパク質の立体構造上に分散するプロトンの固有のラーマ周波数を表わしています。
 時間軸から周波数軸
へのフーリエ変換
 FID信号(時間軸上の信号)  NMRスペクトル(周波数軸上の信号)
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多次元NMRスペクトル
  タンパク質の構造を解析するためには、タンパク質のポリペプチド主鎖に沿うH、N、Cαの共鳴周波数を測定する必要があります。原子の数が非常に多いため、1次元NMRスペクトルでは1Hのピークだけでも重なり合って、それぞれのピークを区別することができません。そのため特別なパルス列からなる電磁波を、1Hと15Nあるいは13Cに同時に照射して、連結した15Nと1H(あるいは13Cと1H)の核の共鳴周波数を2次元平面上の交点の座標として同時に決定することができます。これを2次元NMRスペクトルといいます(下図参照)。最近ではさらに、3核を同時に照射して3次元の周波数空間上にスペクトルを描く多次元NMR法が用いられています。
ポリペプチド主鎖
2次元HSQCスペクトル
 左の図は15N-1H-HSQCと呼ばれる2次元NMRスペクトルです。試料タンパク質はリゾチームのS-S結合欠損変異体です。このスペクトル中には129残基の主鎖NHと少数の側鎖NHの交差ピークが写っています。交差ピークの横座標はNH基の1Hの共鳴周波数、縦座標はNH基の15Nの共鳴周波数を表わしています。このスペクトル上の交差ピークが何番目のアミノ酸残基に由来するのか帰属することができれば、タンパク質の構造にどのような変化がおきているのか原子レベルの分解能で解析することができます。
図をクリックすると拡大します。交差ピークの名前は残基番号とアミノ酸名です。