先生の過去の論文


ここでは僕自身の心の中では区切りがついたと感じている研究や、あまりに時間が経ちすぎて風化してしまった感のある研究も多い故、※の部分には論文の内容というより、個人的な思い出を中心に書いてみました。論文内容についてのご質問は個別にいたしますので、直接高橋までお問い合わせくだされば幸いです。

1. Observation of the surface structure of the free standing films in an antiferroelectric liquid crystal, MHPOBC, by Xray diffraction, K.Tajiri, N.Yamada, H.Orihara, I.Takahashi, H.Terauchi, J.Harada, Y.Ishibashi, Journal of the Physical Society of Japan, Vol.64 (1995) 3157-3159.
※図らずも?寺内先生との初の共著論文。僕としては名大工学部石橋研の田尻くんの測定のパートをお手伝いしただけのcontributionでしたが、結構厄介な実験でした。だから論文に僕の名前を載せてくれることになったと聞かせられた時は少し嬉しかったものです。個人的にも名大の超強力X線施設で行った最後の実験で、それなりに思い出深いものとなりました。

2. Atomic level interface structure of InP/InPAs/InP measured by Xray CTR scattering, M.Tabuchi, Y.Takeda, Y.Sakuraba, T.Kumamoto, K.Fujibayashi, I.Takahashi, J.Harada, H.Kamei, Journal of Crystal Growth, Vol.146 (1995) 148-152.
3. Xray CTR scattering measured of AsH3 exposed InP/InPAs/InP single heterostructures, Y.Takeda, Y.Sakuraba, K.Fujibayashi, M.Tabuchi, T.Kuramoto, I.Takahashi, J.Harada, H.Kamei, Applied Physics Letters, Vol.66 (1995) 332-334.
※2と3は名大工学部の竹田先生のグループとの共同研究。InPAsの1原子分の厚さの層がCTR散乱で検出できるかどうか、実のところかなり心配だったのですが、結果的には予想以上の成果が挙がりました。特にInPAsがキャップ層の方にだけ拡散している様子が手に取るように判ったときにはCTR散乱のpotentialityの高さに内心感動しました(田淵くん達の前では「こんなの当然さ」という様に涼しい顔をしていましたが)。

4. Structure of silicon oxide on Si(001) grown at low temperature, I.Takahashi, K.Nakano, J.Harada, T. Shimura, M.Umeno, Surface Science, Vol.315 (1994) L1021-1024.
5. Distribution of microcrystals in amorphous SiO2 on Si(001) surface, I.Takahashi, J.Harada, in Semiconductor Silicon 1994, Edited by H.R.Huff et. al., 1994 The Electrochemical Society, Pennington NJ. 1147-1155.
※4は阪大工学部梅野先生との共同研究で、オゾン酸化やプラズマ酸化でもSiO2膜中に“問題の微結晶”が形成されることを示した論文です。結晶相なるものが熱酸化膜一般に存在することを示すことができたと思います。一方5は学会のproceedingsとして出版されたものですが、これまでのSiO2膜研究のまとめのつもりで書きました。余談ですが、その会議で僕が発表した直後にproceedingsのeditor代表のHuffというデカイ人が僕の所にやってきて、「面白い発表をどうもありがとう」とか何とか言いながら(無論英語で)ギューと握手してくれたことは忘れがたい思い出です。その夜はチャイナタウン(サンフランシスコでしたから)の中華料理屋に行き、一人で祝杯をあげました。

6. Sm2+ photoluminescence and Xray scattering studies of A- and B- type CaF2 on Si(111), N.S.Sokolov, T.Hirai, K.Kawasaki, S.Ohmi, K.Tsutui, S.Furukawa, I.Takahashi, Y.Itoh, J.Harada, Japanese Journal of Applied Physics, Vol.33 (1994) 2395-2400.
7. Xray crystal truncation rod scattering from MBE grown (CaF2 ? SrF2)/Si(111) superlattices, J.Harada, Y.Itoh, T.Shimura, I.Takahashi, J.C.Alvalez, N.S.Sokolov, Applied Surface Science, Vol.75 (1994) 263-268.
※6と7はSi上にCaF2のエピタキシャル膜を成長させた試料の界面構造を原子レベルで決定した研究です。関学に来てからは“原子レベルでの構造決定”の仕事は余りやらなくなったのですが、この頃は結構がんばっていました。Aタイプ界面とBタイプ界面の精密決定を行いましたが、結果的に他の実験手法による結果とは一致しない結果になり、益々混迷の度を深めてしまいました・・・。逆空間のどこを見るのが効果的かということを僕はこの研究で学びました。またCaのサイト位置が日が経つとひょいと変わったりするビックリの新現象が現れたりして、そういうのも面白かったです。共同研究者のロシアの人たちも、また担当した当時の大学院生もそれぞれになかなか個性的で(それゆえに少々疲れることもあったけれど)、楽しい研究でした。

8. Xray diffraction evidence for epitaxial microcrystallinity in thermally oxidized SiO2 thin films on the Si(001) surface, I.Takahashi, T.Shimura, J.Harada, Journal of Physics: Condensed Matter, Vol.5 (1993) 6525-6536.
※Si上の酸化膜中に分布するエピタキシャルなSiO2微結晶、その構造モデルを提案し、分布関数を決定した論文です。結構新奇で且つ過激な主張です。ですから普段以上に結晶学的にきちんと書くことを心がけました。英語も気になり、オーストラリアのAndrewにFAXして直してもらいました(当時電子メールは大学でも一般的ではなかった)。当時は東芝の人たちと共同研究をしていました。

9. Characterization of the (0001) surface of ice Ih crystal by crystal truncation rod scattering with the use of a synchrotron radiation source, A.Goto, K.Akiya, T.Hondoh, Y.Furukawa, T.Shimura, I.Takahashi, J.Harada, Journal of Crystal Growth, Vol.121 (1992) 360-364.
※後藤君(故人)と最初で最後の共著論文となってしまった仕事です。北大工学部のグループとの共同研究。氷のCTR散乱の初の検出例です。ああいう優秀な人が亡くなって、何で僕のような凡庸な人間が生き残ったのだろうか、当時はマジでそう思いました。あれからもう10年近くも経つのですね。

10. Appearance of new scatterings in the modulated phases of thiourea SC(NH2)2 under electric fields, A.Onodera, Y.Fujiwara, Y.Kato, I.Takahashi, Y.Shiozaki, Ferroelectrics, Vol. 105 (1990) 231-235.
11. Structural changes of thiourea in connection with its phase transitions: reappraisal of rigidity and librations of the molecule, I.Takahashi, A.Onodera, Y.Shiozaki, Acta Crystallographica B46 (1990) 661-664.
※10はマスターの際の仕事が一部お役にたった(のだろうか?)様です。11はチオ尿素を研究していて、一度はこういう仕事をやらねばならないと思い、行った結果です。始めはそれ程期待していなかったのですが、結構多くの事柄が解りました。結果的にこの研究のお陰で博士論文をまとめる際にはずいぶんと助かりました、そんな仕事です。

12. Xray study of ferroelectric behavior in the mixed crystals (NH4)2SO4-R2SO4(R=K, Rb, Cs), Y.Shiozaki, A.Onodera, M.Yoshida, I.Takahashi, Ferroelectrics, Vol.96 (1989) 73-77.
13. The structure of the incommensurate phase in thiourea: effects of the hydrogen bonds on the longitudinal mode, I.Takahashi, A.Onodera, Y.Shiozaki, Journal of Physics C: Solid State Physics, Vol.21 (1988) 5699-5706.
※13は僕のチオ尿素3部作(?)の真中に位置する論文です。第1作目で問題とされた部分を新たなデータで補強し、更に僕の主張を定量的に説明しようとしたものです。この論文を発表してから1年以内にチオ尿素のIC構造の論文が内外で都合5編も出されて、ひやりとしたものです。しかしそれぞれ異なる視点から研究し記述されており、同じようなテーマでも研究者の数だけ物理があるものなのだなあとつくづく感心させられました。

14. Xray study of the modulation wave structure in thiourea, I.Takahashi, A.Onodera, Y.Shiozaki, Physical Review B36 (1987) 7008-7012.
※チオ尿素3部作の第1作。一言ではいえない思い出がいっぱい詰まった、僕の青春時代の・・・です。当時はこの論文で述べられているような主張と言うか、ものの見方は極めて新しいものであったと信じています。その意味で自己評価度はたいへん高い論文なのですが・・・

15. Structure of rubidium selenate at room temperature, I.Takahashi, A.Onodera, Y.Shiozaki, Acta Crystallographica C43 (1987) 179-182.
16. Crystal structure of Rb2SeO4 and Rb2BeF4, A.Onodera, I.Takahashi, S.Ishii, Y.Shiozaki, Japanese Journal of Applied Physics, Vol.24 (1985) 591-593.
※15、16は卒研の仕事です。特に15は僕の初めての英語での論文でした。今でも英語はうまくないですが当時のことを思うと・・・赤面してしまいます。ひどい英語をきちんと見ていただいた小野寺先生には本当に感謝しております。因果は巡ると申しますか、僕も今では学生のまずい英語を読まされる立場にありますが。

17. Diffraction study of solid solution [Thiourea]1-x[Urea]x, Y.Shiozaki, A.Onodera, I.Takahashi, Y.Kato, Y.Fujiwara, Japanese Journal of Applied Physics, Vol.24 (1985) 841-843.
※この仕事では、ポスターを作製した以外に研究面で僕が何をどう手伝ったのかどうも思い出せません。なにぶん塩崎先生が原稿を書いていた当時僕はM1でしたから・・・構造因子の計算をしたような、しないような・・・そんな気もしないでは無いのですが・・・神戸でのIMFのproceedingsであり、これが僕の国際会議での初めての発表でした。小樽からフェリーに乗り30時間後に舞鶴に着き、塩崎先生の車で六甲山を越えて神戸入りしました(学生時代は金が無かったので、当時“内地”に行くにはフェリーばかりでした。この時は偶々塩崎先生が車で行くというので、研究室の皆でかたまって行きましたが、普段は独りで乗ることの方が多かったです。秋の学会の時は台風シーズンでもあるので、揺れがひどくて30時間の間全然物を食べられない(船酔いで)時もありました。)。塩崎先生の運転は結構北海道的で道中は面白かったけれど、少しどきどきもしました。途中(今から考えてみると176号線で)三田の旧市街の周囲をぐるりと半周しました。「ミタ?、いやサンダと読むのか?」とか話しあっていたのだけは覚えています。後年この町に住んで働くことになるとは、いやはや・・・当時は流石に予想できませんでした。それで発表の方は・・・大いに緊張し、結構外しました。

(和文)
1. X線散乱による結晶成長表面・界面の評価、原田仁平、高橋功、志村孝功、日本結晶成長学会誌Vol.21(1994)209-216.
2. X線CTR散乱によるシリコン酸化薄膜界面の評価、高橋功、原田仁平、ウルトラクリーンテクノロジー、Vol.6(1994)185-193.
3. チオ尿素の不整合相における変調波の構造、高橋功、日本結晶学会誌Vol.31(1990)283-288.