Department of Bioscience,
School of Science and Technology,
Kwansei Gakuin University


関西学院大学 理工学部 生命医化学専攻科
平井研究室




研究内容
2007年度 2006年度 2005年度 2004年度
上皮組織の構築プログラムは個体の発生・器官の再生過程において活発に進行するが出来上がった組織が複雑な生命現象を効率よくこなせるように、その形態変化・機能分化は時間的、空間的に厳密にコントロールされている。当研究室では、必要に応じて細胞外に分泌され隣接する上皮の局所的な形態変化を促す間質細胞内蛋白質エピモルフィンに着目し、この分子の精密な上皮形態調節機構についての研究を行っている。昨年度までに、通常t-SNAREとして細胞膜内側で待機しているエピモルフィンの細胞外へ分泌される分子メカニズムと、隣接する上皮細胞に対する作用機構を分子レベルで明らかにしてきた。本年度は、得られた知見をさらに深化させるために、エピモルフィンの細胞内外での機能の相関や他のファミリーメンバー(synatxin1,3,4,5,6)についての比較検討を行うと共に、正常細胞を用いてエピモルフィンが及ぼす効果をより具体的かつ詳細に解析した。その結果、1)エピモルフィンの細胞内機能ドメイン(SNAREドメイン)はエピモルフィンに分泌方向性を付与するらしい事、2)種々の細胞の膜上でエピモルフィンと共発現するsynatxin3,4もエピモルフィンと同様に一部が必要に応じて細胞外に分泌される事、3)エピモルフィンの適度な濃度勾配が、皮膚モデルでの正常な表皮分化プログラムの進行に重要であること等が明らかになった。これらの結果は、エピモルフィンのファミリーメンバーが協調的に細胞外シグナル分子としても機能し、形態のみならず機能分化の巧妙な調節に深く関わる可能性を示唆する。また、本年度は、活性化した血小板でエピモルフィンが細胞外に提示される現象がt-SNARE分子の細胞内機能を追及している研究者により確認され、エピモルフィンの細胞外機能は定まった組織構造を形成しない血球系細胞にまで拡張された。今後は、得られた知見をさらに系統的に整理、統合することでエピモルフィンファミリーの細胞外機能の全容を解明し、最終的には組織分化制御における新しい概念の確立を目指したい。 (文責:平井)
A: 生体内の、ならびにシグナルペプチドを人工的に付加したエピモルフィンの構造。

B: 繊維芽細胞にAの遺伝子を導入し、エピモルフィンの細胞での発現と培地中への分泌をIBで解析したもの。

C: 細胞表面に発現しているエピモルフィンの局在を調べたもの。本来エピモルフィンはシグナルペプチドを持たないが一部が必要に応じて分泌される。N末端にシグナルペプチドを付加するとエピモルフィンは通常の分泌経路に乗って細胞外に運ばれるがこの際、糖鎖修飾がなされ分泌が行われなくなる(B)と共に、限局した細胞外発現のパターンが失われる(C)。
第二のテーマとして、皮膚上皮細胞の密着結合の形成過程の解析を行っている。これまでに、1) 培養皮膚細胞のひとつであるHaCaT細胞はJNK阻害剤SP600125存在下で数時間培養されると、密着結合を新規に形成し、2) この際にclaudin-4がリン酸化されることを明らかにした。
そこで次に、claudin-4をリン酸化するカイネースの探索をおこなった。まず、claudin-4のカルボキシル末端側の細胞質ドメインに、aPKCの基質に保存されている配列を発見し、in vitroのkinase assayによりaPKCがclaudin-4の195番目のセリンをリン酸化することを明らかにした。HaCaT細胞において、このセリン残基は前出の密着結合の形成過程の際にリン酸化されることが明らかになった。さらに、リン酸化されたclaudin-4はリン酸化されていないclaudin-4に比べてより密着結合に濃縮する傾向が観察された(図2矢じり)。
一方で,特異性の高い阻害剤を用いた実験により、aPKCの活性が上記のHaCaT細胞の密着結合の形成に必須であることも明らかにした。以上の結果を踏まえ,HaCaT細胞ではaPKCによるclaudin-4の195番目のセリンのリン酸化によって、密着結合の形成が制御されているのではないかと考えている。今後は,今回同定した密着結合形成の制御機構が他の細胞にも存在するか否かを解明したいと考えている。 (文責:青野)
図2 リン酸化claudin-4の局在