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Sugar chem ––––––––––
糖と糖,あるいはアルコールをつなぐO-グリコシル化反応は,糖鎖や糖タンパク質など,糖を含む化合物の化学的供給に不可欠な反応の一つである。このO-グリコシル化反応の重要な課題の一つにアノマー位での立体化学の制御がある。特に天然物に広く存在する,D-グルコースを基本単位とするβ-O-グルコシド結合の立体選択的構築は,糖の化学における最も基本的な課題である。現在,その化学的構築法として,隣接基関与法が最も普及している(Figure 1)。
Figure 1. Neighboring group participation in O-glycosylation
Figure 2. Glycosylation without Neighboring group participation
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以前,完全なβ-選択性を出すグリコシル化反応を報告したのですが,その反応に用いる糖供与体,フッ化 2,4-ジ-O-ベンジル-3,6-O-(オルトキシリレン)-グルコピラノシルの合成効率が良くありませんでした。本論文では,改良した合成経路を報告しています。また,1,2,4-オルトアセチルグルコースへの3,6-架橋構築や,1,2,4-オルトアセチルグルコースの合成法改善も併せて報告しています。さらに,グルコースの3,6位を架橋したら,フラノース体が安定型になる新発見も加えました。発見したこの性質は,ピラノース体が欲しい私達の合成には大問題となりました。しかし,「熱グリコシル化」という方法でこの問題を解決し,表題化合物の改良合成法を完成させました。この改良法では,修飾しやすい合成中間体を新たに経由するようになったため,多くの類縁体も合成しやすくなり,アキシアル・リッチ糖の応用拡大に貢献しそうです。
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隣接基関与法を用いずに完全なβ-選択性を実現するグリコシル化反応を本論文で発表しました。D-グルコピラノースの3位と6位のヒドロキシ基をオルトキシリレン基で架橋し,立体配座をアキシアル・リッチに固定した糖供与体の設計が新しく,フッ化糖としたこのアキシアル・リッチ糖をSnCl2−AgB(C6F5)4が触媒して完全β-選択的グリコシル化反応を実現しました。この反応は,グリコシル化段階と異性化段階を経て進行するという機構も,併せて報告しています。この反応機構は,酸性あるいは塩基性のモレキュラーシーブの性質を駆使して解明しました。完全なβ-選択性は,アキシアル・リッチに固定された立体配座と,反応中に生じる触媒HB(C6F5)4によるβ体に収束する異性化との相乗効果によって実現されています。
Ellagitannin ––––––––––
Figure 1. Biosynthesis of ellagitannins
Figure 2. Structural diversity of ellagitannins
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エラジタンニンの一つ、セルシジニンAを全合成しました。合成は、グルコース上の二つのガロイル基を分子内カップリングする経路でも、予め用意したヘキサヒドロキシジフェノイル基をグルコースにダブルエステル化する経路でも、どちらでも可能でした。この全合成によって、天然物セルシジニンAの構造を確認することができました。また、グルコースの3,4位酸素をヘキサヒドロキシジフェノイル基が架橋したタイプのエラジタンニン合成は初めてです。この全合成を達成するまでに二つの問題がありました。一つは、β-グルコースをフルにガロイル化すると、3,4位でのヘキサヒドロキシジフェノイル基形成ができないこと、もう一つは、これまで一般的に使ってきたフェノール部分を全部ベンジル化したガロイル基は、この合成では使えないことでした。本論文には、この二つの問題の解決方法も述べられています。この合成で得たノウハウは、より複雑なエラジタンニンを合成する経路を考察するときに役立ちそうです。 |