研 究 内 容
-ヒト皮膚角層細胞間脂質の研究 (入門編)-
1.研究概要
皮膚の最も重要な役割は、外界物質の侵入や過剰な水分蒸散を抑制するバリア機能を維持し続けることである。このバリア機能は皮膚の最外層に位置する角層が担っており、そこで細胞間脂質は角層の構成物の1つとして、重要な役割を果たしている。
図1.皮膚の構造
皮膚はコラーゲンやエラスチンなどから形成される真皮と、絶えず細胞分裂を繰り返している表皮 から形成される。表皮の最外層では角化の過程で扁平状になった角層細胞と細胞間脂質が角層を形成する。細胞間脂質は扁平状の角質細胞に対し垂直な方向に配 列してラメラ構造を形成する。このラメラ構造の側方充填配列構造がバリア機能に重要な役割を果たすと考えられている。
角層細胞に対し垂直な方向から電子線を照射すると細胞間脂質の側方配列構造に由来する回折パターンが得られる。回折パターンは主 にHexagonal (Hex) 構造とOrthorhombic (Ort) 構造に由来することが知られており、アトピーなどの病変皮膚ではOrt構造の割合が低下していることがわかっている。電子線の回折パターンより、これらの 構造特性や存在比などの情報が得られると、角層のバリア特性を非侵襲的に評価することが可能になる。
図2.細胞間脂質のラメラ構造と側方充填配列構造
細胞間脂質の側方充填配列構造は主にHexとOrtから構成されており、Hexには0.41nm、Ortは0.41 nmと0.37 nmの周期性が伴っている。こうした角層構造を非侵襲で計測する手法を確立することにより、
などへの応用が期待される。
<ref>
・Study on Regional
Differences of Stratum Corneum Structure in Human Skin by Electron
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・Structural Analysis of the Skin Stratum
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