研 究 内 容
-膜物性の研究 (入門編)-
1.生体膜とは…?
細胞組織を包み込む薄膜の総称。細胞組織の内部と外部を分ける役割を担います。細胞を取り巻く細胞膜も生体膜の一種。主に脂質膜とたんぱく質でできています。
図1.細胞と細胞膜
生体内(主成分は水)において、脂質分子は互いに集合することで、上下一対の薄い膜を形成しています。この膜を脂質二重層膜(lipid bilayer)
と呼びます。我々は人工的に脂質二重層膜を作製し、その物性を研究しています。
2.脂質とは…?
親水基と疎水基が結合してできた分子の総称。広い意味では石鹸などの界面活性剤も脂質の一種です。
図2.脂質(代表的リン脂質DMPG)の構造と簡略図
水中において脂質分子は自発的に集合し、疎水性尾部を内側(水に触れないように)、親水性頭部を外側(水側)に向けた、二重層膜を形成します。
また、平坦な二重層膜のままではそのふちで炭化水素鎖が水に接触してしまうので通常はふちが閉じた球状の構造体を形成します。これをベシクル(vesicle)と呼んでいます。特に人工系では、ベシクルが幾重にも巻いた構造(マルチラメラベシクル)を形成することもあります。
図3.脂質二重層膜とマルチラメラベシクルの断面図
3.人工膜の温度相転移
温度を変えると氷(固相)が溶けて水(液相)になり、ついには水蒸気(気相)になるように、脂質膜も温度に応じてその形状や性質が変わります。これを相転移と呼びます。脂質膜では、ゲル相やリップル相、流動相が知られています。身近な脂質にバターがありますが、バターを温めるとどうなるかを考えると分かりやすいかもしれません...。
図4.脂質二重層膜の代表的相転移挙動
流動相: 炭化水素鎖が融解(激しく運動)していることが特徴的なやわらかい相です。生体膜に近い性質を示すといわれています。
リップル相: 脂質分子の運動が流動相より低くゲル相より高い中間的な相です。膜面がさざ波(ripple)のようにうねっている事が特徴的です。電子顕微鏡を使うと表面のうねを見ることができます。
ゲル相: 脂質分子の運動性が小さく、脂質が密に詰まった固い相です。この相は不安定で、長時間放置するとより安定な相(サブゲル/結晶相)へ、転移していくこともあります。この転移は副転移と呼ばれます。