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(1) mig-17類似変異体他DTC移動変異体の解析

MIG-17を含む細胞移動制御メカニズムの全体像解明に向けて、mig-17変異体と同様の表現型を示す他の遺伝子のクローニングと機能の解析を進めるている。mig-23, mig-29, mig-30変異体では体壁筋で生産されたMIG-17が生殖巣に局在できなくなっていた。クローニングの結果MIG-23は筋肉で発現するGolgi NDPaseであることが分かった。Golgi NDPaseは蛋白質の糖鎖修飾に必要な酵素であり、mig-23変異体ではMIG-17の糖鎖修飾が異常となるため、生殖巣に局在できなくなることが分かった(Nishiwaki et al., Nat. Cell Biol. 6, 31, 2004)。MIG-29およびMIG-30は蛋白質分泌過程での小胞輸送に働くCOG (conserved oligomeric Golgi) complexのサブユニットであることが分かった。COG complexは進化的に保存された8量体complexであり、MIG-29はCOG-3、MIG-30はCOG-1に相当する。mig-29およびmig-30変異体ではおそらくMIG-23のGolgi内での輸送が異常となるために、MIG-23が不安定となり、やはりMIG-17の糖修飾に異常をきたすことが分かった(Kubota et al., Development 133, 263, 2006)。現在この他にもmig-22, mig-26, mig-24などの分子的実体が明らかとなっている。mig変異体は未解析のものがまだ多数有り、これらの遺伝子の解析を通して、DTC移動制御の機構を明らかにする。

(2) mig-17抑圧変異体の原因遺伝子のクローニングと解析

mig-17 と相互作用するあるいはその近傍で機能する遺伝子を同定するために、我々はmig-17 の抑圧変異体を分離している。これにはnull変異である mig-17 (k174)とmissense変異であるmig-17 (k167) 2種類のmig-17 変異体を用いている。これらの変異体は同様の表現型を示すが、k174 はk167 よりも強い異常を示す。すなわちk167 は機能を完全に失った変異ではないと考えられる。k174 からはMIG-17の下流で機能する因子かあるいはMIG-17の必要性をバイパスする変異の分離が期待される。また、k167 から はMIG-17の負の制御因子例えばプロテアーゼインヒビター)などの変異も期待できる。これらの 遺伝子の詳細なマッピングを進め、分子レベルでの解析を行う。mig-17(k174)抑圧変異体の一つsaf-1 (suppressor of ADAM family defect-1)の原因遺伝子をクローニングしたところ、進化的に保存された細胞外マトリクス蛋白質fibulinをコードすることが明らかとなった。そこで遺伝名をfbl-1と変更した。FBL-1蛋白質は9個のEGF様リピートを持つ蛋白質であり、消化管から分泌されて、生殖巣基底膜に局在する。抑圧変異は3番目のEGFモチーフ内の限られたアミノ酸置換であることが分かった。興味深いことに、FBL-1は生殖巣基底膜のMIG-17の活性に依存して、生殖巣に強く局在することが分かっている(Kubota et al., Curr. Biol. 14, 2011, 2004)。mig-17抑圧変異体はfbl-1以外に少なくとも4種類の遺伝子座が同定できており、これらのクローニングと解析を進める。

(3) MIG-17およびFBL-1と相互作用する分子の生化学的同定

遺伝学的手法による相互作用分子の同定はC. elegansの遺伝学的特徴を生かしたアプローチであるが、相互作用分子が機能的に重複していたり、変異が致死的である場合には同定は困難である。そこで免疫沈降法や蛋白質の固定化カラムを用いて相互作用分子を生化学的に同定する。同定された分子については逆遺伝学的に機能の解析を進める。我々の研究室では欠失変異体の凍結ライブラリーをすでに作成済みであり、生化学的に同定された遺伝子については平均1ヶ月程度でノックアウトを取得可能である。

(4) MIG-17やFBL-1とその他の細胞外マトリックス蛋白質との遺伝学的相互作用

C. elegansは脊椎動物と進化的に8億年前に分離したと考えられているが、細胞外マトリックス(ECM)蛋白質のレパートリーは良く保存されている(Hutter et al., Science 287, 989, 2000)。例えばnidogen,proteoglycan (perlecan, syndecan, agrin, glypican, typeXVIII collagen, NG2), laminin, typeIV collagen, SPARK, fibulin, fibrillinなどがある。C. elegansは脊椎動物の間質に相当する組織を持たないので、これらのECM蛋白質の多くは基底膜の成分であると考えられる。また多くの場合C. elegansは脊椎動物に比べてECM蛋白質のアイソフォームをコードする遺伝子の数が少ない。例えばC. elegansのfibulin遺伝子はfbl-1のみであるが、哺乳類では5種類のfibulin遺伝子がある。このようなことからC. elegansは発生過程での基底膜蛋白質の機能解析に適したモデル動物であると言える。これらのECM遺伝子のいくつかについては変異体が入手可能である。また変異体が存在しないものについてはノックアウト変異体の分離を進めている。ECM遺伝子とmig-17あるいはfbl-1との遺伝学的相互作用を検討する。

(5) C. elegans生殖巣の器官培養系の確立

C. elegansの生殖巣原基は胚発生後期に形成される。1齢幼虫期に腹部中央体壁筋上に接着され、2齢幼虫期にDTCは体壁筋上で移動を開始する。dig-1変異体では生殖巣原基が背側体壁筋や体側の下皮上に接着する。この場合にも機能的な生殖巣は形成されるが、生殖巣の形態は異常となる(Thomas et al., 1990; K. Nishiwaki未発表)。このようなことから生殖巣の発生は原基の体内での部位に強くは依存せず、適当な培養条件を工夫すれば生殖巣のin vitroでの培養がある程度可能であると思われる。我々はDTC移動の細胞外からの制御に注目して研究を進めており、このようなシステムが確立できれば遺伝学的に同定した分子の機能をin vitroの系で検証可能である。牛胎児血清を含むL-15培地で胚細胞の数十日間の培養が可能であり、神経や筋肉の分化が認められている(Christensen et al., Neuron 33, 503, 2002)。また脊椎動物での器官培養なども参考として、C. elegans生殖巣の培養条件を検討する。

研究テーマ