研究内容

X線とは?

1886年ドイツの物理学者ウィルヘルム・レントゲンによって発見されました。何だかよくわからない線ということで、「X」線と命名されました。物質を透過する力が強く、私たちの周りでも医療用のレントゲンや、空港の持ち物検査などで有名です。レントゲンは1901年第1回ノーベル物理学賞を受賞しました。

X線で輝く高温の宇宙~1000万度?~

X線は波長が非常に短いけれど、目に見える光(可視光)と同じ電磁波の一種です。電磁波はその波長が短くなるほど温度が高くなる性質を持っています。表面温度約 6000 度の太陽は可視光で明るいですから、可視光の1000倍波長が短いX線は可視光の1000倍高温であると言えます。そんな宇宙のX線が日夜地球に降り注いているとは、X線天文学が始まるまで誰も想像しませんでした。地球大気が宇宙X線を完全に吸収してしまい地表では観測できないからです。地表に暮らす私たちは、大気に守られているといえます。1962年、ロッシ氏、ジャッコーニ氏(米)、小田稔氏らは、ロケット観測によって、強いX線を放射する天体の存在を明らかにし、ここX線天文学が始ます。そして、現在も活発に研究が行われています。ジャッコーニ氏は2002年ノーベル物理学賞を受賞しました。

元素の起源~宇宙の錬金術~

宇宙にはX線で輝く(つまり高温の)天体がたくさんあります。その一つが超新星残骸です。超新星残骸とは、星の最後の大爆発(超新星爆発)が宇宙空間に残した天体で、数千万度の高温プラズマが半径数光年にも及ぶ球体として、X線で明るく輝いています(図1)。電磁波のエネルギー(波長)ごとの電磁波の強さの違いを示すグラフ(スペクトル:図2)には、なめらかな曲線(連続成分)とともに、特定の波長だけ強い突起状の構造(輝線)が見られ、輝線から元素の存在量を調べることができます。私たち人間や地球を作り上げた様々な元素は星の内部の核融合によって合成され、超新星爆発により宇宙空間に供給されました。X線のカラー画像とスペクトルから、元素が合成されるメカニズムを超新星残骸の観測で探っています。

図1:X線天文衛星「すざく」で得られた超新星残骸カシオペアAのX線スペクトル

図2:X線天文衛星Chandraで撮影した超新星残骸カシオペアAのX線画像。エネルギー(波長)の違いを元に擬似カラーで示す。

X線CCDカメラ~X線カラー写真~

超新星残骸のような拡がった天体について、質の高い画像とスペクトルを同時に取得できるようになったのは、X線CCDカメラのおかけです。デジタルカメラの撮像デバイスとして可視光の分野で今や当たり前の存在となったCCDは、1969年米国・ベル研究所のボイル氏とスミス氏によって発明されました。写真フィルムと異なり画像が電子的に記録されることで、画像処理の世界に多大な変革をもたらし、画素サイズの細かさと雑音レベルの低さは驚異的でした。彼らば2009年ノーベル物理学賞を受賞しています。このCCD、中身は半導体として最も一般的なシリコンで、実はX線も検出することができます(感度があるといいます)。さらに、X線の場合、可視光では不可能なX線の波長ごとの明るさを調べる、分光(スペクトル)ができるのです。

観測装置を作る、~衛星開発と次世代検出器の基礎開発~

宇宙X線を観測するためには、観測装置を搭載した人工衛星を開発・製作し、ロケットに搭載して大気圏外に打ち上げる必要があります。X線CCDは、1990年日本のX線天文衛星「あすか」に世界で初めて搭載されて以来、現在活躍中のすべてのX線天文衛星に搭載され、20年以上、X線天文分野における標準的な焦点面検出器として活躍しています。X線CCDカメラが搭載された「ひとみ」(ASTRO-H)衛星は、打ち上げ後間もなく、軌道上で発生した不具合により、活動停止になりましたが、そのために培った技術と人材、搭載装置が無事に稼働したという実績を積み上げることができました。

現在、X線CCDの利点を生かしつつ信号の読み出しに時間がかかるという難点を克服する次世代のCMOS技術を利用したX線撮像分光器の基礎開発を進めています。

全波長の光(電磁波)で探る宇宙の謎~新生・関学物理~

以上、X線でみる宇宙のお話をしましたが、現在、我々科学者は、電波からγ線まであらゆる波長の電磁波で宇宙を観測しています。異なる波長で観測することは、宇宙のいろいろな状況を多面的に調べることができるので、大変重要です。2015年度より、宇宙観測系の研究室が平賀研究室を含めて3つも立ち上がりました。従来あった宇宙系の2研究室はいずれも理論系、様々な波長で観測された結果を用いて、波長を問わず一つの物理的解釈に導く専門家です。観測系と理論系が強力にタッグを組み、5研究室で関学物理の新しい柱にならんと、日々教育と研究に邁進しています。宇宙に興味を持つ高校生が一人でも多く入学し、人類の根源的な謎、壮大なスケールで起きる物理現象、そして、夢とロマンのある宇宙について、学んでもらえることを期待しています。