京都大学数理解析研究所プロジェクト研究(平成18年度)

グレブナー基底の理論的有効性と実践的有効性


1960年代、Buchberger と廣中平祐によって独立に発見されたグレブナー基底の概念は、 多項式方程式などを取り扱うアルゴリズムを与えるものであり、 近年、コンピュータの目覚ましい発達の恩恵を受け、劇的な発展を遂げた。 『グレブナー基底』は現代数学を象徴するキーワードの一つであり、 その理論と実践は、可換環論、代数幾何などの純粋数学のみならず、 離散数学、整数計画、符号理論、統計数学などの応用数学、 情報科学においても深い影響を及ぼしている。

当該プロジェクト研究は、純粋数学、応用数学を問わず、 グレブナー基底の理論と実践の研究に携わる国内、 海外の研究者が一堂に会し、セミナー、研究集会、 国際会議などを通し、自由な雰囲気の中で、最新情報の交換、 活発な議論と討論を重ねる貴重な機会となる。それによって、 異なる研究領域を専門とする研究者が、グレブナー基底を巡る斬新な視点と 問題意識を共有することが可能となり、以て理論と実践の両面から 相互的かつ多角的にグレブナー基底の研究が飛躍的に発展すると期待される。

当該プロジェクト研究の骨格を成す企画は、2件の RIMS 共同研究、 2件の RIMS 研究集会、1件の国際研究集会であるが、 それに加え、若手研究者育成の一環として、非専門家を対象とする 『グレブナー基底夏の学校』を計画している。 それぞれの企画の概要を下記に記載する。
  1. RIMS 共同研究(115教室)
    グレブナー基底のD加群の理論への応用は1990年代後半 から本格的に始まり、D加群の基本的な不変量である特性 多様体、制限、b関数などの計算アルゴリズムが確立した。 また、超幾何微分方程式系などの具体例への理論的および 計算実験的な研究も多くなされている。当該分野では日本は 研究拠点の一つであるが、研究者が一堂に会して共同研究 を行う機会はほとんどなかった。当該共同研究では、まず、 各研究者が最近の研究成果を報告し、参加者との討論など によって斬新な発展の方向を探ることを目指す。

  2. KIAS-RIMS 共同研究(115教室)
    近年、グレブナー基底は基本計算として様々な数学 分野での具体的計算に応用されている。当該研究集会 では、グレブナー基底の効率的な計算法と実装を中心 とし、それを基盤とする効率的な数学計算アルゴリズム について、計算量評価から計算の実際性まで、最新の 成果を交換し、実際面でのグレブナー基底計算の有効性 や今後の方向性について議論する。

  3. グレブナー基底夏の学校(420教室)
    • 2006年 8月28日(月曜日) 〜 9月 1日(金曜日)

    大学院生、学部学生などを含む非専門家を対象とした グレブナー基底の教育的な講演を、専門分野の異なる 研究者10人が解説する。講演者10人に原稿を依頼し、 テキストを出版し、それを使う。テキストは軽い読み物風 の論説集として、数学書房から出版する。 講演/執筆者は

    横山 和弘、佐藤 洋祐、大杉 英史、大阿久俊則、 齋藤  睦、
    竹村 彰通、坂田 年男、松井 泰子、 阪田省二郎、村井  聡。

    詳細については、
    こちらをご覧下さい。
            
  4. RIMS 研究集会(420教室)
    • 『計算代数統計の展開』
    • 2006年11月 6日(月曜日) 〜 11月10日(金曜日)
    • 研究代表者:竹村彰通(東京大学)
    • プログラム

    統計学その他の応用数学の分野で、最近になって代数計算 の有効性が注目を浴びている。それはグレブナー基底の 手法の発展などにより、離散性や組合せ構造を持つ具体的 な問題の解法として代数的方法の有効性が認識されてきた ことによる。当該研究集会では、統計学を含む応用数学の 具体的諸問題とそれらの代数的解法について講演と討論を 行う。

  5. RIMS 研究集会(420教室)
    可換代数と代数幾何は、グレブナー基底の理論的有効性が 実感できる顕著な領域である。当該研究集会では、計算遂行 のための道具ではなく、理論的な定理を証明するための 不可欠な手段としてのグレブナー基底の果たす役割など を探求し、計算可換代数と計算代数幾何における昨今の 研究成果について講演と討論を行う。

  6. 国際研究集会(420教室)
    プロジェクト研究の総括的な国際研究集会である。 海外招待講演者10人による総合講演、国内講演者10人 による招待講演など。

  7. 国内/海外講演者による月例セミナー ``Current Trends in Grobner Bases"
    講演者の専門領域に属する 研究者のみを聴衆とするのではなく、グレブナー基底の基礎知識を 持つ一般の研究者が理解できるような概観的な話を、講演者自身の 立場から自由に話して頂くことを目的とする。

  8. 当該プロジェクト研究の総括として、『グレブナー基底の理論的有効性と 実践的有効性』を、国際雑誌 Journal of Pure and Applied Algebra  の特集号(Guest Editors: Takayuki Hibi and Rekha Thomas) として出版する。




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Last modified: 2006.12.2