Department of Bioscience,
School of Science and Technology,
Kwansei Gakuin University


関西学院大学 理工学部 生命医化学専攻科
平井研究室




研究内容
2007年度 2006年度 2005年度 2004年度
組織分化制御学研究部門は、組織の形態分化を促進・制御するエピモルフィンに関する研究を深化させることを目的に、住友電気工業(株)の寄付により2004年10月に開設された。
 
 組織を構成する機能細胞は(非接着性のものを除いて)生体内で互いに規則的に接着・連絡し合いながら高次の組織構造体の中で巧妙に機能調節していることを考慮すると、細胞移植を用いた再生医療の早期実現ためには細胞が有機的に繋がった組織構造体の構築誘導が必要である。
 
 エピモルフィンは1992年に見出された形態形成誘導因子であり、細胞外への分泌機構等にまだまだ未知な部分は多いが、種々の臓器で上皮組織に直接作用して強力に組織構築を誘導しその形態を制御する。
 例えば乳腺上皮細胞を用いた研究では、エピモルフィンは上皮組織の構造形成に必須であり投与形体を変化させることで(不溶性の性質を利用すれば不均一な投与が可能)誘導される組織形態が変化することが培養細胞、トランスジェニックマウスの両方の系で明らかになっている。種々の組替え蛋白を用いた研究からは、分子内/分子間の相互作用で不溶性となったエピモルフィンが状況に応じて(スプライシングやMMPによる切断で)膜から遊離しターゲット細胞上でその受容体と結合するらしい証拠が見つかり、その下流で発現誘導/抑制される分子についての知見も蓄積されてきた。
 また、エピモルフィン発現のためのウイルスや機能阻害用のRNAiベクターの有用性も確認され現在これらの大量調製が修了した段階である。
さらに、ごく最近このエピモルフィンの形態形成誘導能を利用した「発毛剤」の開発で進展があった。経皮吸収させるために行った活性配列抽出と活性構造創成のためのアミノ酸置換・化学修飾で、血行促進、栄養補給を主目的とする従来の発毛・育毛剤有効成分の1/100000濃度で強力に毛包形成を誘導するものが得られたのである。この有効濃度は生理活性物質がシグナル分子として機能するそれに匹敵し、このことは少なくとも毛包上皮細胞に対してのエピモルフィン最小活性単位が合成できたことを示唆する。
こういった一連の研究の結果、これまで一見不溶性で取り扱いの困難であったエピモルフィンの機能を自由に利用出来るツールが完全に揃った。

 今後、これらの分子ツールをベースに、これまで内外で蓄積された形態形成に係わる分子群の知見を取り入れ、細胞の接着・骨格再編成・極性・運動性等の分子レベルでの解析ならびに制御を試みる。
 また、将来的には高次の組織形態形成の機構解析・制御研究を深化させると共に、組織構造体を構築する応用技術ついても検討したい。なお、研究対象とする細胞・組織は、その応用可能性を勘案して皮膚ならびにその付属物を中心に据えることとし、種々のモデル細胞や幹細胞から機能分化させて得る正常細胞などを積極的に利用する。