E2Fは、8つのファミリーメンバー(E2F1~E2F8)からなります。このうちE2F1はがん化抑制に、E2F3は細胞増殖に特に重要な働きをしています。E2F3には、E2F3aとE2F3bの2つのアイソフォームがありますが、私達は新しいファミリーメンバーとしてE2F3cとE2F3dを同定しました。両者とも細胞質に局在するため、これらは従来知られる転写制御とは異なる機能を発揮していると予想されます。

5. pRBの制御を外れたE2Fは、がんの診断や治療に役立てられる

がん細胞では、pRBの機能不全によってpRBの制御を外れたE2Fが生じているけれども、p53の機能も障害されることにより許容された状態になっていると予想されます。すなわち、細胞がん化の原理に基づいて、pRBの制御を外れたE2Fはがん細胞特異的と予想されます(図4)。事実、調べた限り、ARF遺伝子を活性化するpRBの制御を外れたE2F活性は、正常細胞ではたとえ増殖中であっても検出されず、がん細胞でのみ検出されました。また、ほぼ全てのがんにおいてpRBとp53の機能が障害されているので、pRBの制御を外れたE2Fは、臓器の由来を問わず、全てのがんに普遍的と考えられます。したがって、pRBの制御を外れたE2Fは、がんの診断や治療に有用であると期待されます(図5)。例として、pRBの制御を外れたE2Fに特異的に反応するARFプロモーターにGFP遺伝子などを接続して細胞に導入すれば、がん細胞のみ光らせることが可能と予想されます。また、細胞傷害性遺伝子を接続して細胞に導入すれば、がん細胞でのみ傷害性遺伝子を発現させ、殺すことができると予想されます。
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6. HTLV-Iウイルス粒子と成人T細胞白血病細胞

II. ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-I)

 ヒトT細胞白血病ウイルス human T-cell leukemia virus type I (HTLV-I) は、日沼ョ夫京大名誉教授により、ヒトで初めて発見されたレトロウイルスであり、T細胞に感染して成人T細胞白血病を引き起こします。白血病細胞は、花弁状核と呼ばれる分葉した核をもち、抗がん剤に対して極めて耐性です(図6)。

研究内容
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