研究内容

 

概要

がんの発症メカニズムに基づいて、がん特異的アプローチ法を探索しています。がんは、人が亡くなる原因の中で最も多い(3人に1人)疾患です。


がんの根治治療が難しい主な理由は、抗がん剤や放射線治療に伴う副作用です。これらの抗がん療法は正常な増殖細胞も傷害し、白血球が減少するなどの副作用が生じるため、根治治療が困難となっています。その原因は、これらの抗がん療法は主にDNAを損傷することによって細胞を殺すため、増殖している細胞を優先的に殺しますが、正常な増殖細胞と制御を逸脱して増殖し続けるがん細胞を区別できないことにあります。この問題を解決するためには、正常な増殖細胞とがん細胞を識別する必要があります。

そのために私たちは、がんの発症メカニズムに基づいて、正常細胞には無い、がん細胞に特異的な異常を検索しています。さらに、それを利用してがん細胞を特異的に傷害することを試みています。その一例として、細胞増殖とがん化抑制に中心的な働きをしている転写因子E2Fが、がん細胞でのみがん抑制遺伝子を活性化する特異な活性を発揮していることを見出しました。そこで、がん細胞に特異的なE2F活性の実態の解明とがん細胞特異的な傷害法への応用を試みています。また、E2Fファミリーの新たなメンバーとしてE2F3cとE2F3dを同定したので、その機能解析を行っています。

また、すでに開発済みの薬剤を再度精査し、別の疾患に有効な薬効を見出すことを既存薬再開発(ドラッグ・リポジショニング)といいます。ドラッグ・リポジショニングは新薬の開発に比べ、副作用の情報が豊富で、かつ開発コストの節減や開発期間の短縮が可能であることから近年注目を集めています。私たちの研究室では、血中コレステロール低下薬であるスタチンのドラッグ・リポジショニングについて研究を行っています。スタチンは現在、脂質異常症の治療薬として広く使われていますが、スタチンの詳細な作用メカニズムが明らかになるにつれ、脂質異常症の治療だけでなく、がん治療にも応用できる可能性が出てきました。一般にがんの化学療法で使われる抗がん剤は、副作用が非常に強いことで知られています。一方、スタチンは既存の抗がん剤のような副作用をもたないため、がん治療の選択肢の1つとして、いち早い実用化が望まれます。しかし、その制がん効果はがん細胞の種類によってかなりの差があり、“スタチン適応のがん”の特徴が明確でないことがスタチンを臨床応用する上での大きな壁となっています。私たちはこの問題の解決に向けて、スタチンの制がんメカニズムの解明に取り組んでいます。