研究内容

Taxの標的遺伝子には、T細胞増殖因子IL-2やその受容体IL-2Rが同定されており、がん化のメカニズムとしてIL-2によるオートクラインが提唱されています(図7)。しかし私たちは、Taxによる細胞周期進行の促進は、Tax発現細胞にしか認められないことから、液性因子を介さず直接的に細胞増殖を促進できることを明らかにしました。また、TaxサイクリンDなどの細胞周期進行に関わる遺伝子を活性化することを見出し、その活性化がTaxによる細胞周期進行に重要であることを明らかにしています(図8)。

図7. Taxは増殖関連遺伝子を活性化することにより、細胞増殖を促進する

HTLV-Iは、動物の種々の発がん性レトロウイルスと異なり、狭義のがん遺伝子(細胞の原がん遺伝子由来のがん遺伝子)をもたないことから、その発がん機構に興味がもたれています。HTLV-IゲノムにはpXと呼ばれるユニークな領域があり、その領域にコードされているTaxという因子が、HTLV-I感染によるがん化に重要な役割を担っていると考えられています。Taxは転写制御因子としてはたらき、ウイルス自身のプロモーターに作用してウイルスの遺伝子発現を増強します。さらに、細胞側の種々の増殖関連遺伝子を活性化するため、ウイルス感染細胞が増殖しやすい細胞環境をつくっていると考えられています(図7)。したがって、TaxはHTLV-Iの広義のがん遺伝子産物と言えます。

8. Taxは細胞周期制御遺伝子を活性化することにより細胞周期進行を促進する

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