教育

学生の皆さんへ

現在、当研究室が重点をおいている研究は、「赤外線の宇宙背景放射」の測定により、宇宙誕生から現在までの進化を支配する物理を明らかにする「観測的宇宙論」です。とりわけ特色があるのは、ロケットや人工衛星および惑星探査機により大気圏外から行なう宇宙観測です。

星や銀河がいつどのようにして生まれたのか?このシンプルな疑問は現代宇宙物理学の大きな研究テーマです。現在の宇宙進化論によれば、ビッグバンのすぐ後、ダークマターのわずかな密度むらによる重力でかき集められた原始ガスから初代の星が生まれ、その重力崩壊でブラックホールも生まれたでしょう。近年はビッグバン直後に原始ブラックホールが生まれ天体形成の種になったとの仮説も議論されています。これらの宇宙初期天体は集合合体し現在のような大きな銀河を形成したと考えられています。このような「天体のはじまり」シナリオは本当なのか?その検証には「はじまりの天体」を見つける必要があります。

ではどうやって見つけるのか?答えは赤外線の宇宙背景放射のなかにある、と考えています。宇宙初期の星やブラックホールは超高温ガスをまとっているため紫外線で輝きます。その紫外線は宇宙の膨張とともに波長が10倍以上も伸び、現在は目には見えない赤外線に変化しているはずです。そうか、赤外線なら超遠方の宇宙が見えるのか!

— 実は、宇宙初期天体はあまりにも遠く普通の天体観測では暗すぎて捉えられません。しかし、莫大な数の天体をまとめてぼんやり広がった光として(宇宙背景放射)であれば、捉えられる可能性があります。ただし、地球大気は夜間でも赤外線で極めて明るく輝いているので、ロケットや人工衛星を使って大気圏外から観測することが必要です。

その実験は、国内や海外の共同研究者と力をあわせて開発した望遠鏡をNASAのロケットに載せて赤外線の宇宙背景放射を測定する「CIBER実験」です。その科学成果はScienceやAstrophysical Journalに掲載されました。現在は観測性能を10倍以上向上させたCIBER-2実験に当研究室の学生たちが取組んでいます。装置開発をしながら赤外線技術を習得し、海外研究者との交流や実験に必須のチームワークを経験します。爆音とともにロケットが打上がり装置がうまく働いたときは何ものにも代えがたい感動が得られます。その他にも、宇宙背景ニュートリノの崩壊光子を赤外線として捉えるロケット実験の準備も進めているところです。

宇宙初期から物質を飲み込んで成長しつづけるブラックホールの観測も、極限環境の物理や銀河進化を研究するうえで魅力あるテーマです。ブラックホールの重力エネルギーは放射として解放され、赤外線で明るく輝く「赤外線銀河」の源となります。赤外線銀河は宇宙初期にさかのぼるほど数が増えることから原始銀河の姿であると考えられています。赤外線銀河の研究もまた「はじまりの天体」につながるのです。

当研究室では、これら以外にも将来の宇宙背景放射観測プロジェクトとして,CIBER後継機や超小型衛星VERTECS,さらには外惑星探査や宇宙赤外望遠鏡の計画を推進しています。また、8号館屋上望遠鏡の新たな観測装置を次々と開発しそれらを用いた新天体や新現象の発見もめざしています。これらに加え、可搬式の望遠鏡を用いて日本列島各地に出向いて恒星掩蔽法による小惑星のサイズ決定などの大学ならではの機動力を活かした研究も行っています。

いっしょに面白い研究室を創ってゆきましょう!

担当授業科目

  • 学部
  • 宇宙物理学
  • 宇宙物理学入門
  • 基礎物理学実験I
  • 物理学実験I
  • 物理学実験II
  • サブゼミ
  • 卒業実験及び演習
  • 外国書講読
  • 輪講

  • 大学院
  • 宇宙物理学特論III
  • 文献演習
  • 特別実験及び演習

卒研テーマ

  • <2019年度>
  • 宇宙赤外線背景放射観測ロケット実験CIBER-2における感度較正
  • 宇宙赤外線背景放射観測ロケット実験CIBER-2の迷光評価
  • ロケット実験CIBER-2望遠鏡の光学シミュレーションによる照度解析
  • 宇宙背景ニュートリノ崩壊探索COBAND実験搭載くらいJAXの熱構造解析
  • HiZ-GUNDAM搭載近赤外線望遠鏡の光学系の設計
  • 宇宙背景放射観測のための銀河光スペクトルの研究
  • 深宇宙からの宇宙背景放射観測に向けた黄道光の研究
  • 赤外線天文衛星「あかり」の観測データを用いた突発現象の探索
  • 赤外線で明るいAGNの可視光スペクトルによるガス運動の解析
  • SEDフィット法による超高光度赤外線銀河のAGN寄与率の研究
  • <2018年度以前の例>
  • ロケット実験CIBER-2望遠鏡の結像性能評価
  • 宇宙赤外線背景放射観測ロケット実験CIBER-2に採用する制振合金M2052の低温での減衰率測定
  • 小惑星探査機OKEANOS搭載赤外線望遠鏡EXZITの熱構造設計
  • グリズム分光器の小型望遠鏡への適用
  • 赤外線天文衛星「あかり」の遠赤外線における全天サーベイデータの評価
  • なゆた望遠鏡を使った可視分光観測に基づく赤外線銀河の放射機構の研究
  • 2つに分裂した電離ガスの輝線スペクトル放射を示すAGNの研究
  • すばる望遠鏡HSCの観測データに基づく遠方銀河の星形成と進化の研究

修論テーマ

  • <2019年度>
  • 宇宙赤外線背景放射観測ロケット実験CIBER-2の観測装置の較正及び性能評価
  • 銀河系外TeVガンマ線の吸収スペクトル解析による宇宙赤外線背景放射の強度制限
  • <2018年度以前の例>
  • 宇宙背景放射の観測ロケット実験CIBER-2に搭載する赤外線望遠鏡の振動特性評価
  • 「あかり」衛星で観測された赤外線銀河の可視光スペクトル特性
  • 制振合金M2052のロケット搭載光学系への応用
  • 宇宙背景放射を観測するロケット実験CIBER-2望遠鏡の光学性能評価
  • ソーラー電力セイル探査機OKEANOSに搭載する宇宙赤外線背景放射観測装置の設計

ゼミテキスト

  • 宇宙論入門(Ryden 2003)
  • 活動銀河核(Peterson 2001)
  • ブラックホール天文学(嶺重 慎 2016)
  • Radiative Processes in Astrophysics(Rybicki-Lightman 1979)
  • Detection of Light(Rieke 1996)
  • The Physics and Evolution of Active Galactic Nuclei (Netzer 2013)
  • Astrophysics of Gaseous Nebulae and Active Galactic Nuclei (Osterbrock 1989)
  • Astrophysics for Physicists (Choudhuri 2010)