研究内容紹介

ゲノム情報の解読などの科学の進歩によって、今まで不可能とされていた行動や性格を決定する遺伝子を特定することが可能になりつつあります。 これらの遺伝子を知ることができれば、うつ病や統合失調症など“心の病”のメカニズムの解明、治療法の開発、創薬につながる可能性があります。

私達の研究室では、マウスをモデル動物として使い、異常行動の発現に及ぼす遺伝要因,環境要因、及びそれらの相互作用について調べています。これらの研究の成果として、“絶望行動”を制御する遺伝子を特定することに成功しました(Nature Genetics,2009)。

マウスの絶望の程度は、逃避不可能な状況で短時間逃避行動をさせ、途中で逃避を諦めて無動状態になる時間で評価します。水槽の中で泳がせたり(強制水泳テスト)、尾を固定してぶら下げたり(尾懸垂テスト)すると、水に浮いたままや懸垂されたままの状態が間欠的に現れます。この無動化した状態が、ヒトのうつ状態に類似するとされており、テスト時間中の無動時間が長い程うつ傾向が強いと言うことになります。絶望行動は、抗うつ薬の反応性を調べるために用いられ、抗うつ薬投与により無動時間が短縮することが知られています。私達はCSというマウスに注目しました。このマウスは、概日リズムや睡眠に異常が見られますが、面白いことに、強制水泳や尾懸垂テストを行っても、全く無動状態にならない、つまり決して諦めないマウスであることが分かりました(私達は、このマウスをネバーギブアップマウスと呼んでいます)。

そこで、このネバーギブアップを制御する遺伝子を特定することを目的として、一連の遺伝学的研究を行い、Usp46 (Ubiquitin specific peptidase 46)という遺伝子が原因遺伝子であることを見つけました。この遺伝子は、タンパク質の分解に関わるユビキチンをタンパク質から外す、脱ユビキチン化酵素をコードしている遺伝子でした。この遺伝子は、巣作りやアルコール嗜好性、抗うつ薬の反応性などに影響を与え、そのメカニズムに、抑制性神経伝達物質であるGABA系が関与していることを明らかにしました。私達は、Usp46を手掛かりに、動物の異常行動が発現する仕組みについて研究しています。

画像が表示できません。以下が内容。研究の概略;マウスをモデル動物として、遺伝子の異常やストレスによってもたらされる異常行動の細胞内・脳内機序を解明します。これらの研究は人の「心の病の発症原因の解明、治療法の開発、創薬につながります。

現在の研究テーマを以下に示します。

(1)Usp46の細胞内作用機序の解明

Usp46遺伝子の異常は様々な行動に影響しますが、それをもたらす原因は、脳の神経細胞にあると考えられます。そこで、Usp46が神経細胞でどのように働いているかについて調べています。

(2)Usp46変異マウスをモデル動物とした児童虐待の発現機序の解明

Usp46変異マウスの養育行動は、ヒトの児童虐待に類似しており、児童虐待の発現機序を解明するためのモデル動物になる可能性があります。そこで現在、Usp46変異マウスを活用して、養育行動の発現メカニズムを調べています。

(3)Usp46が及ぼす概日リズムへの影響

Usp46は、もともと概日リズムが異常なマウスから分離した遺伝子です。そこで、Usp46がどのようなメカニズムにより概日リズムに影響しているかについて、Usp46ノックアウトマウスを用いて調べています。

(4)概日リズムの撹乱が及ぼす行動表現型への影響

概日リズムの不調とうつ病などの精神疾患との関連についてはよく知られています。そこで、非24時間の明暗周期などで概日リズムを撹乱した場合の行動表現型への影響について調べています。