数理モデル論 (Fall 2007)
講義内容.
確率論I、確率論IIの知識を過程して、それらの講義の続きとして,大偏差原理および
離散マルティンゲールについて講義する.
大数の強法則によって,独立同分布の確率変数列のサンプルの平均はもとの期待値 m
に確率1で収束する.したがって,サンプル平均がmと離れた所にいる
確率はサンプル数を大きくしていくと0に収束するが,その収束の早さは
大数の法則や中心極限定理からはわからない.その収束の早さを調べる理論が
大偏差原理である.この講義の最初の3分の1は大偏差原理について講義する.
後半は,離散マルティンゲールの理論について講義する.マルティンゲールとは
「公平な賭け」を抽象化,一般化した確率変数列のモデルである.例えば勝ち負けが
2分の1の確率である賭けに対し「いかさま」なしの戦略で賭け続けて得られる損得の
数列は,すべてマルティンゲールである.
このようにマルティンゲールというものが賭けと強く結びついた概念であることから,
それが金融のさまざまな問題と深く関連していることは当然である.最近急速に
発展しつつある「数理ファイナンス」あるいは「金融工学」と呼ばれる分野も,
基本的にはマルティンゲール理論がその基礎にある.
この講義の後半3分の2において離散マルティンゲールの基本的事項について講義する.
Optional Sampling 定理とかマルティンゲール収束定理といった基本的な定理もすべて
賭けの戦略といった素朴な概念と強く結びついている事を強調しておく.
話の流れ
- 測度論的確率論の基本事項,特に極限定理の復習
- 大偏差原理,Cramerの定理
- 条件付き確率、条件付き期待値
- マルティンゲールとは,定義と例
- マルティンゲール変換
- 停止時刻と停止過程,Optional Sampling 定理
- マルティンゲール収束定理
- 収束定理の応用,大数の強法則の別証明
- 数理ファイナンス入門,2項モデル
文献
D. Williams, Probability with Martingales Cambridge
松本裕行 応用のための確率論・確率過程, サイエンス社
成績
出席,レポートおよび定期試験による.