タンパク質の折りたたみ問題とは
ゲノム上の遺伝暗号にしたがってタンパク質の合成が始まり、アミノ酸が100〜300個程度連結されたポリペプチド鎖が細胞内に発現します。このときタンパク質はまだ無定形の鎖状高分子ですが、アミノ酸残基と溶媒の水分子間の物理化学的相互作用によって、きわめて正確に一定の秩序(立体)構造に折りたたまれ、アミノ酸配列に固有の生物機能を獲得します。100残基からなるタンパク質でも、折りたたまれた時にとりうる立体構造の数は1060という莫大な数になりますが、そのうちただ一つの立体構造しか選択されないのはなぜでしょう。よほど強い決定的力が働いているようにみえますが決してそうではありません。むしろファン・デル・ワールス力や水素結合という弱い力が多くの構成要素間に働いてたった一つの立体構造を選択的に決定しています。アミノ酸配列のみがタンパク質の立体構造(生物機能)を決定する要因です。すなわち、非周期的なアミノ酸配列という情報が物理化学的な基本原理に従う「ブラックボックス」を通してタンパク質の生物機能という個性を決めているということになります。この問題を解くことがタンパク質の折りたたみ問題と呼ばれています。
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