右の写真は、1965年に行われたD.C.Phillips博士の王立協会での講演会の模様です。1998年のNature Struct. Biol.誌に掲載されました。天井からリゾチームの長いポリペプチド鎖が吊り下げられています。解明されたばかりのリゾチームの立体構造模型を机の上に置いて、個性に富むアミノ酸の長い鎖がコンパクトな球状構造に折りたたまれることがタンパク質の顕著な特徴であることを講演したそうです。1968年に大学院に入学した私は、M.Eigenが開発した温度ジャンプ法を観測手段として、リゾチームの折りたたみ反応の速度論的研究を始めました。

これまでの研究の代表的なものをリストしました。

タンパク質のFolding反応の速度論的研究

1974年の論文は温度ジャンプ装置の開発の論文です。1973年の論文では折りたたみ反応の遷移状態が比熱変化の点から判断してNative状態に近いことを示しました。1984年はそれをさらに充実したものです。2000年の論文は4種類の3SSリゾチーム変異体を用いて、残基76-94の領域が近接することが折りたたみ反応の律速過程であることを示したものです。

1) Biopolymers 12(1973), 2521-2537.
2) Jap. J. Appl. Phys. 13(1974), 1151-1157.
3) Biopolymers 23(1984), 2473-2488.
4) Nature Struc. Biol. 3(1996), 868-873.
5) J. Mol. Biol. 295(2000), 1275-1288.
NMR分光法によるS-S結合欠損リゾチーム変異体の構造解析

1991年の論文はTFEがリゾチームのhelix構造領域のペプチド断片鎖のhelix形成能を大きく増大させることを示しました。1994年の論文は初めてリゾチームのS-S結合欠損変異体の構造安定性を報告したもの。2002年と2004年の論文はリゾチームS-S結合欠損変異体の構造をNMR分光法によって構造解析したもの。2002年の論文で2SS変異体が安定な立体構造を保持できるかどうかの境界線上にあることを示しました。

1) Biopolymers 31(1991), 497-509.
2) Biochemistry 33(1994), 15008-15016.
3) Biochemistry 41(2002), 2130-2139.
4) Biochemistry 43(2004) 6663-6669.
タンパク質の折りたたみ反応に関する理論的な研究

1986年の論文はIsland-Modelタンパク質を考察し、そのモンテカルロ・シミュレーションを実行したものです。タンパク質の折りたたみ反応のall-or-none転移性、反応径路、遷移状態などについて理論的な考察を行った。1988年の論文はYale大学に留学中の研究で、タンパク質の立体構造は数個の折りたたみ構造単位に分割できるよう仕組まれているということを示しました。構造が分割できる部位を隠れた蝶つがいとして同定する計算プログラムを開発しました。

1) Biopolymers 25(1986), 1815-1835.
2) Biopolymers 27(1988),23-40.

水素交換反応によるタンパク質の立体構造の揺らぎの研究

天然立体構造が揺らぐとき、その限界を越えるとタンパク質は秩序構造を失って鎖はほどける。折りたたみ反応の遷移状態はその立体構造の揺らぎの限界に対応するという観点から、天然構造の揺らぎについて研究を行った。1986年にはアミドの赤外吸収スペクトルを用いて観測したが、1997年以降はNMRスペクトルを用いてアミノ酸残基毎の構造の揺らぎを調べている。

1) Biopolymers 25(1986), 1981-1996.
2) Biopolymers 41(1997), 131-143.
タンパク質の折りたたみ反応の熱力学的研究

タンパク質の折りたたみ反応は構成要素である原子間の相互作用エネルギーを獲得する過程である。したがって、熱エネルギーの変化を直接観測する必要がある。生体高分子の構造変化に伴う熱エネルギー変化は非常に小さいので専用の超高感度熱測定装置が必要であった。1989年の論文は示差走査型(DSC)熱測定装置を用いて研究したもの。1998年にはチトクロムcを大きな2つのペプチド鎖断片に分割して、ペプチド断片鎖複合体形成反応が熱力学的にも天然タンパク質の折りたたみ反応に同等であることを示した。

1) Biopolymers 28(1989), 1033-1041.
2) Protein Science 7(1998), 1717-1727.
タンパク質折りたたみ反応に関する総説

日本の雑誌にいくつかの解説記事、総説を書きました。英語版としては2004年にEncyclopediaにProtein Foldingに関する解説を書きました。1972年の生物物理は、尊敬していたM.Eigenの「生体高分子の進化と生命の起源」に関する歴史的な論文を、大学院生のときに紹介したものです。2002年に発表した蛋白質・核酸・酵素の総説はS-S結合欠損リゾチーム変異体に対する我々の研究をまとめたものです。

1) 生物物理 Vol.12, N0.4(1972) 40-49.
2) 蛋白質・核酸・酵素 Vol.28, No.8(1983)985-999.
3) パリティ V0l.3, No.3(1988)74-76.
4) 生物物理 Vol.28, No.2(1988), 5-7.
5) ビッグスマイル (1992) 10-11.
6) 関学ジャーナル 1993年
7) パリティ Vol.10, No.6(1995)4-11.
8) 蛋白質・核酸・酵素 Vol.47, No.2(2002), 145-151.
9) Encyclopedia Nanoscience Nanotechnology, Vol.2(2004),443-473.
NMR化学シフト値の登録データ

種々のリゾチーム変異体に対して測定された化学シフト値の表をNMRデータバンクに登録したもの。
1. 組換体リゾチーム:5068
2. 2SS変異体[6-127,30-115]:5069
3. 3SS変異体C64A/C80A: 5803
4. 3SS変異体C76A/C94A: 5804
5. 3SS変異体C30A/C115A: 6415

最近3年間の研究活動

http://www.kwansei.info/src/