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2006年度 博士論文・修士論文の要旨

修士論文

半導体GaAs表面のラフネス制御とタンパク質固定化機能
-Silaffinタンパク質 によるシリカ形状制御を目指して-

金子研究室 遠藤 佳祐

 現在、微細加工技術の観点から、珪藻はSiO2を主成分とする被殻をもち、その被殻形成である自発的構造物形成過程(自己組織化)が注目されている。1999年Krogerらによって、珪酸を数百nm程度の大きさの顆粒状に凝集(固体シリカを形成)させるタンパク質であるsilaffinがCylindrotheca fusiformisの被殻から精製された。2005年、我々の研究グループは大腸菌の形質転換を利用した組換silaffinの大量発現系を構築し、組換silaffinによるシリカ形成を確認した。silaffinの固体表面への固定に関する研究では、塗布したポリマー表面上へのものは知られているが、半導体基板上への直接固定化は報告されていない。一般に、タンパク質の固定化には、電気的要因(イオン電荷均衡)と構造要因(表面形状)が知られているが、本研究では光デバイス等へ展開可能な化合物半導体GaAs基板をsilaffin固定のための支持担体に選び、構造要因の観点から固定化可能な条件探索を目的とした。我々はGaAs表面ラフネス制御基板の作製に当たり、酸化膜表面上にMBE法を用いてGaAs多結晶を少量堆積させ、所望のラフネスを制御する手法を確立した。そして、この表面上へ比較タンパク質としてβ-D-Galactosidaseを用いて定量的な吸着量を測定したところ、明らかなラフネス存在性を見出した。同様の手法を用いて、組換silaffinの固定化を試みたところ、固体シリカの生成効率に対して最適ラフネスが存在すると考えられる結果が示唆された。

MBE法を用いた表面原子拡散場制御による選択成長:
‐過熱水蒸気を用いた酸化膜改質とマスク機能-

金子研究室 大場 丈司

 近年ナノテクノロジーとして代表される半導体表面における微細加工技術は急速に進歩している。従来の光リソグラフィー技術はパターン一括転写のための露光マスクと感光性を有する有機レジストを必要とした。我々の研究室では従来の露光マスクの代わりに電子線直接描画法を、有機レジストの代わりにGaAs基板表面を覆う自然酸化膜を無機レジストとして用いたマスクレス・レジストレス・リソグラフィー技術を開発した。この技術はGaAs基板表面の自然酸化膜上に電子線の直接照射を行うことにより、改質された酸化膜領域が後工程の成長プロセスに対して選択的マスク耐性を有するものである。本技術における、GaAsパターン基板上への選択成長を行うには、厚さ約3nmの自然酸化膜を電子線照射により改質させて、その表面自然酸化膜中に良質なGa2O3を形成させることが重要である。そこで本研究では、過熱水蒸気を導入することにより自然酸化膜中の良質なGa2O3を制御し、新たなマスク機能を得ることを目的とし、MBE法により得られた3次元構造物からマスク機能の検討を行った。その結果、過熱水蒸気照射により自然酸化膜中に結晶性の高いGa2O3が得られた。このことから酸化膜改質モデル及び改質酸化膜上のGa拡散からのGaAs3次元構造物形成モデルを立てた。新たに過熱水蒸気照射することにより得られたマスクを用いた微細化に向けたGaAs選択成長も行った。

高温気相環境下における単結晶SiCの表面不安定性と形状制御

金子研究室 奥城 慎太郎

 六方晶の結晶形をもつ単結晶SiCでは{0001}面が最も表面自由エネルギーが低い。しかし、従来のSiC表面改質方法である気相環境下での高温ガスエッチング用いては、転位欠陥からの不均一なエッチングが発生するため、{0001}面の平坦化が達成されていない。そこで我々はSiC{0001}面の平坦化を目的に、新しい物理環境下での高温気相表面形状制御技術であるSi雰囲気アニール(エッチング技術)とSiC-Si雰囲気アニール(気相成長技術)を用いて4H-SiC{0001}面に対する不安定性の議論をもとに、高真空アニール後の新しいSi雰囲気アニールを提案する。

 {0001}面のSi雰囲気アニールでは、アニール前基板表面に存在する表面欠陥や研磨傷を含む不安定サイトからの優先的なエッチングによって巨視的な三次元構造(マウンド)が形成された。また{0001}面のSiC-Si雰囲気アニールでは、成長因子が多くなると、表面には等方的な側面で囲まれたアイランドが形成され、表面自由エネルギーは増大した。

 高真空アニール後のSi雰囲気アニールとは、まず高真空アニールによるSiC表面の炭化によって表面欠陥や研磨傷を含む不安定サイトを分解する。次にSi雰囲気アニールを行い、炭化層をアモルファスSiCに再結晶化させる。その後エッチング反応によりアモルファスSiCを除去し、その結果、安定なSiC{0001}表面の露出に成功した。

Comparative First-Principles Study of ATiO3 Perovskite Oxides (A = Ba, Sr, and Pb)

Hayafuji Lab. Hironori Kawanishi

 A comparative study of the electronic structures of BaTiO3, SrTiO3, and PbTiO3 is performed in order to identify the atomistic factors governing the occurrence of a ferroelectric or antiferrodistortive (rotating-type) phase transition in ATiO3 perovskite oxides. The discrete variational-Xα molecular orbital method is employed to calculate the electronic structures of BaTiO3, SrTiO3, and PbTiO3 in a cubic lattice. The changes in the strength of the A-O (A = Ba, Sr, and Pb) and Ti-O covalent interactions are determined as a function of the rotation angle of TiO6 octahedron and the ferroelectric displacement of Ti and O. A comparison of the calculated results indicates that the rotation of TiO6 octahedron and the ferroelectric displacement are dominated by the A-O and Ti-O covalent interactions, and that the type of phase transition that occurs (ferroelectric or antiferrodistortive) in these perovskite oxides is governed by the delicate balance between the strength of the A-O and Ti-O covalent interactions.

Electronic structures of ZnO doped with various atoms (from Li to Bi without radioactive atoms)

Hayafuji Lab. Kinoshita Yusuke

Abstract

 We calculated the electronic structures of ZnO with impurity atoms of lithium to bismuth without radioactive elements to study energy levels of the impurities by the discrete-variational - Xα method using the program code SCAT. α method using the program code SCAT. Atomic cluster models used in the calculations were based on the following two kinds of the ZnO clusters: (Zn29O56X)56- and (Zn56YO96)78-, whose centers were occupied by an X atom located at its O site or by a Y atom located at its Zn site, respectively, where the X and Y atoms were impurity atoms from lithium to bismuth without radioactive elements. The calculated energy level diagrams for the almost all of the ZnO cluster models with the impurity gave us impurity energy levels in the energy gap between the highest occupied molecular orbital and the lowest unoccupied molecular orbital. The results showed that it is likely for group-VIIA atoms and a part of group-IA and -IIA atoms in the O site to be a shallow donor as well as group-VA atoms to be a shallow accepter, and also for a part of group-IA atoms in the Zn site to be a shallow accepter as well as group- VIB atoms to be a shallow donor.

表面圧-面積測定による皮膚角層を構成する脂質間の相互作用の研究

加藤研究室 小島 多加志

 皮膚最外層にある角質内の細胞間脂質層は、主成分のセラミド、脂肪酸、コレステロールが結晶のように高い配向秩序性をもつことで異物の体内への侵入や過剰な水分蒸散を抑制し、皮膚バリア機能に重要な役割を果たしていると考えられている。本研究では、セラミド、脂肪酸(パルミチン酸)、コレステロールを材料として、これらの脂質を混合した二成分系の単分子膜を気水界面に作製し、表面圧-面積(π-A)測定を行って分子間の相互作用を検討した。二成分混合系のモル比を変えて表面圧30mN/mでの分子占有面積A30の値を求め、分子間に相互作用がないときに得られる理想関数からのずれを解析した。その結果、純水表面の単分子膜の実験ではこれら3種の脂質間に目立った相互作用がないことが示唆された。次に皮膚角層中に存在する陽イオンが分子間相互作用に与える効果を評価するために200mM KCl溶液表面の単分子膜に対してπ-A測定を行った。K+イオン存在下ではセラミド/パルミチン酸では斥力、パルミチン酸/コレステロールでは引力が働いていることを示す結果が得られた。これらの分子間相互作用には解離したパルミチン酸の負電荷が関与していると考えられる。そこでK+濃度を変えてパルミチン酸の単分子膜のπ-A測定を行い、理論から予測される解離度のK+濃度依存性と比較し、分子占有面積の変化について考察した。

「準ブール充足可能性判定によるクラスタ型VLIW DSPの最適コードスケジューリング」

高橋和子研究室 小林 涼

 本論文では、Texas Instruments社製TMS320C62xをモデルとしたクラスタ型VLIW DSP(Very Long Instruction Word Digital Signal Processor)に対し、そのデータパスの詳細やデータ転送演算の挿入まで含めた最適コードスケジューリングを、準ブール充足可能性判定により求める手法を提案する。%VLIWは1命令で複数の演算を並列に実行できるアーキテクチャである。DSPはディジタル信号処理を高速に低消費電力で実行することを目的に最適化されたプロセッサである。特に1命令で複数の演算を並列に実行できるVLIWプロセッサは、静的スケジューリングに基づく並列演算により優れた電力性能比を達成できるが、クラスタ型VLIWプロセッサの性能を引き出すためには、演算の並列化スケジューリングやクラスタ間のデータ転送演算の挿入等まで考慮に入れたコードスケジューリングが重要な課題となる。

 本研究では、プログラムの基本ブロックを表す「依存グラフ」と、プロセッサが演算をどのように実行するかを表す「命令パターン集合」を入力とすることにより、データパスの詳細まで考慮したコードスケジューリング問題の定式化を行う。この定式化は、有限状態機械の状態探索に基づくことによりデータ転送の挿入等にまで対応している。充足可能性判定によるこの問題の解法では、記憶容量制約の表現のサイズが大きくなるという問題があるが、本研究では準ブール充足可能性判定の適用によりこれを解決する。提案手法を実装した結果、最大の基本ブロックの演算数が15程度の規模のプログラムに対し、数十秒で最適コードを生成することができた。また、演算数50程度の規模のプログラムに対し、数十分で最適コードを生成することができた。

ランダム媒質中の光記録効果と偏光特性

栗田研究室 佐藤 敦子

 微粒子散乱体が不規則に分散しているランダム媒質に照射されたレーザー光は、散乱体によって多重散乱される。そのため、媒質内のある点にはさまざまな道筋を通ってやって来た光が干渉し、媒質内に不規則な明暗の模様(強度分布)ができる。そこで光反応性物質を組み込めば、この強度分布を記録することができ、照射光の入射角度や波長、偏光を変えると強度分布が変わるので、それらを記録することが出来る。このような多重散乱光を利用した光記録効果の、特に偏光特性の研究を通して、ランダム媒質中での光の振る舞いについて調べた。

 測定は、試料から発せられる蛍光強度の入射角度掃引による測定を行った。記録時と同じ条件の照射光にすると、違う条件にしたときよりも蛍光強度が下がり、ホールのあいた形のグラフを得る。記録時の偏光に対して直交する偏光を照射すると(例:縦偏光に対して横偏光)、ホールが見えなくなり媒質内の強度分布に相関がなくなることがわかった。また、未知の偏光が記録されている場合の偏光の読み出し方を考え、ロックインアンプを用いた方法での読み出し方を試した。さらに、FDTD法を用いたシミュレーションでMaxwell方程式を直接解くことによって、媒質内の光の時間的、空間的伝播を計算した。直線偏光角度θの掃引による蛍光測定の結果得られるホールの形状は、理論的考察によりcos2θと考えられ、シミュレーション結果もそれに一致した。また、散乱強度がとても弱いと、直交する偏光でも強度分布に相関があるという結果が得られた。

オンライン予測による資産運用及び社債ネットワークの安定性解析に関する研究

高橋和子研究室 杉浦 一馬

 本研究では、オンライン予測による資産運用に関する研究と、社債ネットワークに関する研究を行った。

 オンライン予測とは、繰り返しゲームにおいて、参加者すべての情報が手に入るという条件のもとで最適な戦略を出力するモデルである。学習者はゲームの成績により他の参加者に対する模倣度を決定する。オンライン予測では、ゲームの参加者のうち最も優秀な参加者と自分との差(相対損失)を評価基準にしており、相対損失の上限が理論的に求められている。しかし、上限は最悪状況での評価であり、平均的な性能は良いことが期待できる。本研究では、テクニカル分析に従う投資戦略やオプション取引を行う投資戦略を採る参加者を用い、実データに基づいて、シミュレーションにより様々な評価を行った。その結果、平均的な相対損失は理論的上限値よりもかなり低く、良い性能を示すことが分かった。

 次に、社債ネットワークを提案し、その解析を行った。社債は一部の社会的信用のある企業のみが発行できる債券であり、中小企業は社債発行による資金調達は難しい。そこで、互いのキャッシュフローを予測できる企業グループを構成し、資金需要を満たす社債ネットワークというものを提案した。社債ネットワークのクーポン金利は預金金利より高く、貸付金利よりも低く設定しているので、社債を購入する会社、発行する会社ともに市場金利より有利に運用できるようにした。会社の資金状況を変化させて様々なシミュレーションを行った結果、会社が銀行のみを利用するよりも常に良い結果が得られた。また、社債ネットワーク内のクーポン金利を適切に設定することで、システムを安定的に維持できることが分かった。

X線反射率法によるゲル薄膜と バルクゲル界面構造のその場観察

高橋功研究室  杦本 吉規

 ゲルは巨視的にはコロイド溶液がゼリー状に固化したものであり、微視的には高分子鎖と溶媒からなる粘弾性体で分子が3次元の網状などの構造をとる物質の総称である。身近のゲルといえば寒天、ゼラチン、豆腐などがある。また体の中にもゲルの部分が多く存在する。ゲルの特性としては水などをよく含み、乾燥している大きさから何倍にも膨潤すること、そして通常の固体よりも摩擦力が小さいなど固体とも液体とも異なる物理特性を示すことが知られている。表面に関しても、通常の固体ではほとんど現れない摩擦係数の荷重依存性等、多くの興味深い物性が数多く存在する。本研究ではゲルの膨潤乾燥における変化を明らかにするためにX 線反射率法を用いてゲル薄膜を観察した。その結果膨潤状態での膜厚を乾燥状態の膜厚で割ることで得られる線膨潤比が膜厚の増加に対して増加することと薄膜の線膨潤比はバルクのものより大きいことを見出した。また、バルクゲルの界面の構造を明らかにするためSPring-8 BL13XUで透過型X 線反射率法によって寒天ゲル/Si界面をその場観察した。バルクゲルに荷重をかけてSiに押し当てたときのゲル/Si界面の時間変化の測定で、ゲル界面は3つの領域に区分できることを確認した。まったく界面に変化が見られない第1領域、摩擦の研究で知られているlogtに依存する変化の第2領域そして最後の第3領域は1/fα 揺らぎが存在することを確認した.

AlGaAs表面酸化膜の構造安定性とGaAs選択成長用マスク機能への展開

金子研究室 高 洋介

 ナノ三次元微細構造は量子デバイスへの応用が期待され、その作製法として選択成長法がある。我々の研究室では真空一環プロセスとして電子線直接描画法によるGaAs表面酸化膜改質、描画領域外の自然酸化膜の選択的熱脱離、その場MBE選択成長からなる選択成長法を考案し、三次元微細構造を“その場”で作製できること実証してきた。しかし、GaAs自然酸化膜を利用していることから、熱的不安定性によって選択成長条件が制限される問題があった。本研究ではAl2O3の融点の高さに注目し、GaAs自然酸化膜に変わる新規無機レジストとして、AlGaAs酸化膜を用いた。Gaと同じⅢ族原子であるAlはMBE法によって厚みが制御でき、酸化速度をAl含有率で制御できる。無機レジストとして利用するためにはEB描画領域外を選択的に脱離しなければならないため、低Al含有率AlGaAs酸化膜を対象とする必要がある。しかし、低Al含有率AlGaAs酸化膜の構造、熱的安定性などは報告されていない。本研究は低Al含有率AlGaAs酸化膜の選択成長用マスク機能への展開を目的とし、Al含有率と酸化条件に依存した酸化膜構造・熱的安定性に関して議論を行った。わずかのAlを印加するだけで、酸化膜の熱的安定性が高まる事を明らかにした。さらに選択成長用マスク機能性はGaAs酸化膜よりも高く、よりアスペクト比の高い構造物作製可能性を見出した。

セラミド/パルミチン酸/コレステロール系の電子線回折

加藤研究室 高岸 勲

 皮膚表皮の最外層に位置する角層が過度の水分蒸散やアレルゲンが体内に侵入することを防ぐために重要な役割を果たしていると考えられている。角層は、角質細胞と細胞間脂質(種々のセラミドや脂肪酸、コレステロール)から構成されている。細胞間脂質の炭化水素鎖の側方充填構造にはliquidphase、hexagonal(Hex)、orthorhombic(Ort)が知られている。これまで角層細胞間脂質の構造解析には主にX線回折法が用いられてきた。しかし、X線回折では局所的な構造の情報は得られない。そこで、私たちは局所的な情報が得られる電子線回折に着目して実験を行った。電子線回折法では脂質への電子線損傷が大きく、細胞間脂質の構造解析の応用例は少ない。本研究では、検出器にイメージングプレートを採用して露光時間を短縮することにより、電子線損傷による反射ピーク強度の減衰を10%以内に抑えることに成功した。

 次に、細胞間脂質に含まれる種々のセラミドにおいて構造の違いがセラミドの炭化水素鎖にあるOH基の有無だけであるセラミド5(OH基あり)とセラミド2(OH基なし)を使用して電子線回折実験を行った。その結果、セラミド5ではパルミチン酸やコレステロールの添加によってOrt構造の形成が促進されたのに対し、セラミド2では逆にパルミチン酸やコレステロールの添加でOrt構造が現れなくなることがわかった。これらの結果から、炭化水素鎖のOH基による水素結合の細胞間脂質炭化水素鎖の側方充填配列構造への影響について議論した。

モンテカルロ法によるブレーザーの放射スペクトル計算

楠瀬研究室 中村 和旦

 活動銀河核(AGN)の一種であるブレーザーは、相対論的ジェットをほぼ正面から観測している状態であると考えられており、大きな光度、短時間におけるX線やガンマ線強度の変動、電波からガンマ線領域まで幅広い放射スペクトルなどで特徴付けられる。放射スペクトルは、νFν表示で低エネルギーの山(電波〜可視/X線)と高エネルギーの山(X線〜ガンマ線)を持つ、ふたこぶの形状となっている。これらは、主として低エネルギー側がシンクロトロン放射、高エネルギー側は逆コンプトン散乱による放射であると考えられている。

 本研究では、特にジェットの空間構造に着目し、ブレーザーからの放射スペクトルを計算した。ここでは、従来用いられてきた一様球状ジェットモデルではなく、円柱二層構造ジェットを考えた。これは、二層のジェットにそれぞれ異なる速度を与えたモデルである。放射に関わる電子の分布は放射冷却を考慮したbroken power-law分布とし、シンクロトロン放射、逆コンプトン散乱を放射過程として取り入れた。以上のモデル設定の下、モンテカルロシミュレーションを行い、空間構造を持ったジェットの生み出す放射スペクトル、特にガンマ線(高エネルギー光子)の生成に着目した。シミュレーションの結果、層間の速度差の大きさに依存してガンマ線の生成率、言い換えれば放射スペク

Electron Theory of Ferroelectric Phase Transition and Domain Wall in SbSI

吉光研究室 中村 一良

 SbSIは22℃で強誘電的相転移をするⅤ-Ⅵ-Ⅶ族3元化合物である。特徴的な構造として、SbとSが交互に並ぶ屏風状の一次元的Zigzag Chainを形成している。自発分極PsはSbとSがChain方向に変位する事によって発現する。この系の強誘電的不安定性には電子系が強く関与していることが実験的に示唆されている。

 この論文では、相転移を電子論的に解明し、± P(〜一様変位u)の分極をもつ縮退した基底状態の存在を示し、電子系が強誘電的不安定性の主因である事を明らかにしている。また、この電子モデルにより、Domain Wallを一様分極Pの中に生じたSolitonと考え、Wallの生成エネルギー、幅などを求めている。Wallの微視的実体は、バンド・ギャップの中にできる孤立1電子状態である事を示している。

 一次元的なZigzag Chain上のSbの5p軌道とSの3p軌道から、Harrisonに従って電子バンドを構成する。一様変位u(分極P)依存性はハミルトニアンの行列要素を通して入り、uをパラメターとして完全系の電子バンドが求まる。Soliton状態は、± Pを持つ完全秩序状態に挟まれた領域で、場所に依存した変位を持つ行列要素を用いて摂動として扱う。幅lはSolitonの生成エネルギー極小から決定する。強誘電的相転移の電子論的解明として、詳細を良く捉えている。

Eu3+およびSm3+添加Y2O3蛍光体に対するZnO付加の効果

栗田研究室 西垣 賢一

 希土類イオンや遷移金属イオンを発光中心とする蛍光体は、作製する際に不純物を加えると、発光強度が顕著に増加する場合があることが知られている。今回の実験では、Eu3+およびSm3+添加Y2O3蛍光体に対するZnO付加の効果について調べた。試料は固相反応法により作製した。ZnOを加えて試料を作製することによって、発光強度が著しく増加し、1%のZnOを加えるだけで発光強度は約2倍になった。発光の減衰特性を調べると、ZnOを加えずに作製した試料の発光成分は、ZnOを加えて作製した試料の発光成分とEu2O3の発光成分の和で表されることが分かり、ZnOを加えずに作製した試料には、Y2O3に組み込まれなかったEu3+がEu2O3のまま多く残っていると考えられる。また、X線回折測定により、ZnOの付加量が増えるにつれて、Y2O3の[222]回折ピーク(29.20°)がわずかに低角側へシフトする様子が観測された。Y2O3のみにZnOを加えてもほとんどシフトが起こらなかったため、このシフトはEu3+がY2O3に組みこまれて起こったと考えられる。これらの結果は、ZnOによって、Y2O3に組み込まれるEu3+の量が増加しているということを示している。Y2O3:Sm3+についても発光スペクトル、X線回折測定を行い、同様の結論を得た。 また、一般にY2O3は立方晶のみであるが、Eu2O3およびSm2O3は立方晶と単斜晶の2種類の結晶構造を持つことが知られており、原料であるEu2O3およびSm2O3の結晶構造の違いによる固相反応への影響および、蛍光体の発光特性の変化も調べた。

輻輳問題を考慮したモバイルアドホックネットワークルーティング

高橋和子研究室  西村 和也

 アドホックネットワークにおける輻輳制御機能をもつエージェントを使ったルーティング手法を提案する。アドホックネットワークのルーティング手法として、自律性をもつモバイルエージェントを用いたものが注目されており、その1つにテーブルエントリ評価モデルを用いた手法がある。このモデルでは、モバイルエージェントがネットワーク上を動きまわり、ルーティングに必要な情報を収集して、各ノードにあるルーティングテーブルに最新情報を書き込む。パケットはこのテーブルを見ながら自律的に行き先を決定して目的地へとすすむ。

 このモデル上のルーティング手法はいくつか提案されているが、このモデルは実世界で起こりうる問題については考慮していない。本研究では、パケットの輻輳問題を取り上げ、それを解決するためにエントリ評価モデルを拡張した輻輳モデルにおけるルーティング手法を提案する。

 輻輳モデルでは、各ノードが処理できるパケット数に制限を設け、パケットの待ち行列数をルーティングテーブルのメトリックとして追加する。提案するルーティング手法では、この情報を利用することでパケットは混雑を避けた経路をとるようになり、ネットワーク全体として輻輳が起こりにくくなる。

 本研究では、Javaを使って輻輳モデルを実装し、その上で従来の手法と提案手法によるルーティングのシミュレーション実験を行い結果を比較した。

 さらに、エージェントを使わない代表的なルーティング手法であるAODVによるルーティングとも比較した。

 いくつかの条件下で実験を行った結果、提案手法の有効性が示された。

X線反射率法を用いた半導体/金属Ga界面構造の温度依存性の研究

高橋功研究室 野田 武宏

 表面界面構造の評価の手法としてX線反射率(XR)法がある。しかしXR法による界面評価は膜厚がμm以下であること、また表面がラフすぎると困難になるといった問題点がある。そこでXR法を透過型に応用した新しい実験手法である透過型X線反射率(TXR)法による界面構造の非破壊 & in-situ測定による研究を行っている。TXR法では高輝度で高分解能かつ高エネルギーのX線が必要となるため、シンクロトロン放射光施設SPring-8(BL13XU)のX線(波長0.4Å、31keV)を用いて実験を行った。われわれのグループではこれまでにTXR法を用いて、Gaの比較的低温での反応性と、埋もれた界面をin-situ測定できたことからTXR法の有用性を確認した。本研究では、真空蒸着法によってSi基板上にGa薄膜を作製し、XR法により基板上の微粒子の原子レベルでの温度依存性を観察しようと試みた。さらにデバイスとして優れた物性的性質を持つSiCを用いてSiC/Ga/SiCサンドイッチ試料を作製し、TXR法によりその界面の温度依存性を測定した。実験中の真空度は〜10-5Pa、室温から1300℃間を昇温過程で測定した。その結果500℃付近の低温で生じる界面モフォロジーの変化をin-situ測定できた。この変化はSiC表面が原子レベルでGa層へ溶け込むことにより生じた深さ1nm程度のラフネスの増加であり、また溶け込みは平坦な場所でなく、表面研磨による窪みにおいて選択的に生じると考えた。

Atomic and Electronic Structures of Boron Clusters in Crystalline Silicon: The Case of X@B6 and X@B12, X = H - Br

早藤研究室 東口 義経

 Ab initio calculations of the atomic and electronic structures of crystalline silicon with X@B6 and X@B12 (X = H - Br) clusters have been performed to investigate carrier generation by doping atoms inside the cage of the boron clusters as novel type dopants for shallow junction formation. We found that H atoms can be settled in B12- co cluster and the H@B12-co cluster can introduce a very shallow acceptor level whose activation energy is lower than those of B6, B12 (-co, -ico) and substitutional boron atom. Among 96 trial models, the H@B12-co cluster is one of the most promising candidates as the cluster dopant for the improvement of the effi ciency of boron implantation and the formation of a high-performance, ultra-shallow junction.

分子動力学計算によるリゾチーム立体構造の動的性質の研究-種々のS-S結合欠損変異体をプローブとして

瀬川研究室 水口 智貴

 タンパク質立体構造の動的性質を調べるために、リゾチーム分子内に存在する4本のS-S結合のそれぞれを1本欠損させた4種の3SS変異体と、2本のS-S結合を残した3種の2SS変異体を計算機の中に構築して、分子動力学計算による研究が行われた。計算機シミュレーションからは、タンパク分子の運動の様子を詳細に知ることができるが、実験的な研究結果と分子科学的な計算結果の相関を詳しく調べる必要を感じていた。これまで研究室では、S-S結合を系統的に欠損させたリゾチーム変異体を作製して、NMR分光法による立体構造の解析が行われてきたが、その実験結果と分子動力学計算の結果を比較・検討することが研究の目的であった。種々の解析が行われたが、特に主成分解析によって、各変異体に特有の動的構造の揺らぎを抽出することに成功した。とくにCys64-Cys80結合が失われた場合とCys76-Cys94結合が失われた場合のβシート構造の揺らぎの違いが顕著であった。前者ではβシート内のβ1とβ2ストランドが歪むような運動が発生するのに対し、後者ではβシート全体が一体として動くだけでシート構造自体は安定であった。この結果はNMRによる重水素交換の実験データとよい一致を示した。また、300Kと550Kにおける第1主成分ベクトルのモードが類似していることを見出し、分子全体にわたるような大規模な構造の揺らぎが、振幅自身は小さいものの、300Kですでに生じている事が明らかになった。

微粒子散乱体の入った色素溶液中における光散乱とレーザー動作

栗田研究室 森本 浩司

 レーザー発振は光共振器の中にあるレーザー媒質を励起して反転分布状態を起こし、その媒質が誘導放出を行うことによって動作する。微粒子散乱体(直径数百nm程度)がレーザー媒質中にランダムに配置された試料中において、光共振器なしでレーザー発振のような振る舞いをする現象がある(ランダムレーザー)。これは微粒子散乱体がレーザー媒質からの発光を多重散乱し、光共振器のような役割を果たすためだと考えられる。本研究では増幅媒質にRhodamine6GやDCM、微粒子散乱体にTiO2を用いた試料において発光強度の増加や閾値、発光スペクトルの半値幅の減少が見られれた。このことはランダム媒質内に特定の光路が生じたことを示唆する。また本研究では試料中の光の振る舞いをモンテカルロシミュレーションを用いて調べた。吸収のある試料中を進む光は、試料内を進む距離が長くなるほど多くの光が吸収される。弱い吸収のある試料中に微粒子散乱体をランダムに配置することで光路長を伸ばし、吸収される光の量が微粒子散乱体がない場合と比較して約5倍になる条件を発見した。また試料中の微粒子散乱体濃度は薄くても濃くても吸収される光の量は多くなく、最適値があることを明らかにした。

H-D交換NMR法によるリゾチーム2SS(1+3)変異体の研究
- グリセロールの選択的水和がランダムコイル状態のリゾチ ームに部分秩序構造を回復させる

瀬川研究室 遊佐 光伸

 タンパク質が空間的に折りたたまれて、アミノ酸配列が指定する特有の立体構造を形成する過程の研究は、残基レベルの分解能で解明されることを必要としている。そのためには、折りたたみ反応の開始状態である変性状態や、折りたたみ反応中間体の構造をNMR分光法などで直接観測する必要がある。これまで研究室では、天然リゾチームに存在する4本のS-S結合の一部を欠損させた変異体リゾチームを系統的に作製して、それを折りたたみ反応中間体のモデルとして研究してきた。

 2SS変異体はリゾチーム特有の立体構造を維持できるかどうかの臨界状態にあって、残した2本のS-S結合の位置に応じて、タンパク質の立体構造の安定性は大きく異なる。Cys6-Cys127とCys64-Cys80という2本のS-S結合を残した2SS(1+3)変異体は、水溶液中では無秩序鎖の状態であるが、グリセロールを添加すると、タンパク質表面の水和構造が増強されて潜在的に存在していた秩序構造が顕在化して、立体構造を持つタンパク質に特有のCDスペクトルが現れてくる。その構造を残基レベルの分解能で明確にするため、著者は重水素交換NMR法を用いて研究した。その結果、リゾチーム分子のαとβドメインの結合部にA、B、CへリックスとIle55、Leu56を中心とする疎水性残基のクラスターが出現し、それが天然類似の秩序構造になっていることを証明した。

X線反射率法を用いたポリスチレン薄膜のガラス転移の研究

高橋功研究室 楊 春明

 ガラス転移はポリマーの重要な特性である。分子集団の“協力運動”はガラス転移を記述する上で主要な概念である。近年ガラス状態のサンプルのサイズが協同長さξ(T)程度になった時、物性に対して異常な振る舞いが発見されることを期待する研究が盛んに行われている。本研究ではX線反射率法によって分子慣性半径Rg程度の膜厚を持つpolystyreneについて、ガラス形成高分子が示す物理特性の表面・界面の効果と閉じ込め効果の観察を行った。バルクTg以下の温度に新しい現象――膜厚の飛び現象が見出された。膜厚の飛びが生じる温度は膜厚によりわずかに異なる。 ポリスチレン薄膜はSi基板の(100)面にspin-coating法により作製された。同じ分子量(Mw:91000、Rg≈80Å)で異なる膜厚を持つ薄膜に対してそれぞれ小さい温度ステップ(3℃)で測定を行った、得られた膜厚の誤差は±0.3Åに留まっている。 協同長さξ(T)と飛び現象の考察より膜の表面領域のガラス転移温度はTg,s = 80℃、表面領域の厚さh = 40 〜50 Åと推定した。Tg,s以上の温度では、表面のsegmentの過剰な運動は分子loopに沿って膜の内部へと浸透していき、上方へのloopのsliding motionが誘起され、膜厚に飛びが生じるものと考えられる。loopのsliding motionには表面から伝わってきた動力が膜内部の分子の間の相互作用のpotential障壁を越えることが必要であるが、障壁を越える確率は温度に大きく依存する。今回は動力学理論に基づいて膜の内部のガラス転移温度Tg,sはほぼ92℃であると判定した。また、協同運動原理により飛びが生じる条件を分析し、実験との対応を得た。

脳活動および生理指標計測によるコマーシャルの挿入タイミングが心的状態に及ぼす影響

早藤研究室 横井 真一

 最近のTV番組において、ストーリーのクライマックス直前にコマーシャル(CM)を挿入する手法が見受けられる。この手法が注意集中に与える影響を瞬目や呼吸などの生理指標計測により検討した例はあるが、脳活動計測による検討例はない。 本研究では、従来の生理指標計測に加え、fNIRS(functional near infrared spectroscopy)を用いた脳活動計測を行うことで、CMの挿入タイミングが心的状態に及ぼす影響を検討した。 その結果、CMをクライマックス提示後に挿入した場合(休憩条件)には、CM挿入前から注意の脱集中が起こり、クライマックスの直前に挿入した場合(水差し条件)には、CM挿入後に注意の脱集中が起こることが示された。このことから、休憩条件では、クライマックスの提示により、注意集中を自発的にコントロールできたが、水差し条件では、唐突なCMの挿入により注意集中が乱されたことが示唆された。また、個人差はあるが、瞬目の出現パターンから、休憩条件では、CMに入るとすぐにリラックスが起こるが、水差し条件では、CMに入っても放心状態に陥り、しばらくリラックスが起こらないことが示唆された。さらに、番組の印象についてのアンケートから、水差し型CMが不快である旨の記述が見られた。このことから、CMはクライマックス直前よりクライマックス提示後に挿入するほうが望ましいとの見解を得た。加えて、休憩条件では、クライマックスの内容と関連性のあるワーキングメモリの負荷がCM中に高まり、CM中にクライマックスシーンの回想が行われている可能性が示唆された。

博士論文

NMR studies on the folding mechanism of pyrrolidone carboxyl peptidase from a hyperthermophile

瀬川研究室 飯村 哲史

 タンパク質の折りたたみ反応は、これまでに多くの研究がなされてきたが、物理科学的にみるとまだ解明すべき問題が多く残っている。たとえば、ポリペプチド鎖が空間的に折りたたまれていく様子をアミノ酸残基間の相互作用に基づいて理解することにはまだ成功していない。分子レベルでの構造変化を実際に観測するためにはNMR分光法による研究が必須であるが、折りたたみ反応は通常数秒のオーダーで完了するため、構造変化の詳細をNMR分光法で追跡するには速すぎることが問題であった。本論文の著者は、超好熱菌由来のタンパク質であるPyrrolidonecarboxyl peptidase(以後PCPと略す)の折りたたみ反応が酸性pH領域で異常に遅くなるという性質を利用して、タンパク質の折りたたみ反応をNMR分光法によって実時間で観測・追跡する研究に着手した。 分子量約23,000のPCPはNMRのピーク帰属を成功させるためには決して容易なタンパク質ではなかったが、15Nと13Cで一様にラベルしたタンパク試料と、特定のアミノ酸だけを15Nラベルしたタンパク試料を作製して、様々な3重共鳴スペクトルを測定し、隣接残基間の交差ピーク情報に基づいて、各残基の1H、15N、13Cα、13Cβ、13C核の共鳴周波数を連鎖的に帰属した。帰属可能な192残基のうち157残基の帰属に成功し、その結果はNMRデータバンク(BMRB 10052)に登録されている。このNMRデータを活用して、著者はPCPの折りたたみ反応を研究し、種々の重要な知見を得た。 はじめに、水溶液中モノマー状態のPCPと結晶中テトラマー状態のPCPの構造の比較研究を行った。つぎに著者は、PCPの折りたたみ反応に伴う1H-15N-HSQCスペクトルの時間変化を測定して、タンパク質の構造形成過程を残基レベルの分解能で追跡し、その結果、折りたたみ反応開始直後の数秒以内にPCPのC端側約半分のポリペプチド鎖が、2次構造に富むが立体構造は不安定なクラスターを形成し、残りのN端側半分は自由度の大きな無秩序鎖状態になることを見出した。著者はこの状態をD1状態と呼び、D1状態から天然状態(N状態)への構造変化は時定数が7時間程度の極めて遅い反応であること、さらにそれは、解析された約90残基にわたって同一の時定数をもつ驚くほど協同的な構造転移であることを発見した。さらに、協同的相転移の開始状態であるD1状態の詳細が重水素交換NMR法によって研究された。著者はPCPのC末端にある約18残基のα6へリックスがD1状態ですでに安定に形成されていることを見出した。さらに確認のため、α6へリックスの中央にあるAla残基をへリックスブレーカーであるPro残基に置換した変異体を作製し、同様の重水素交換NMR法を用いてα6へリックスが壊れることを実証した。 また著者は、超好熱菌由来のPCPに共通して存在する異常な環境下のGlu残基の役割に注目した。このGlu残基はタンパク質内部の疎水性コアに埋もれていて、一見、超好熱菌PCPの構造安定性に矛盾するように見える(常温菌PCPの対応する残基は疎水性である)。しかし、これを親水性あるいは疎水性の他の残基に置換した5種類の変異体を作製して研究した結果、非解離型カルボキシル基が分子内で強い水素結合を形成して構造安定性に寄与していることが分かった。